アンセルメのビゼー
曲目/ビゼー
A「カルメン」組曲
1.第1幕への前奏曲4:25
2.第4幕への間奏曲(アラゴネーズ)2:16
3.第3幕への間奏曲 2:25
4.第2幕への前奏曲(アルカラの竜騎兵)1:39
5.密輸入者の行進 3:53
6.ハバネラ2:06
7 .衛兵の交代(子供たちの行進)3:40
8ジプシーの踊り5:00
B「アルルの女」
1.第1組曲 第1曲 前奏曲 8:24
2.第1組曲 第2曲 メヌエット 3:29
3.第1組曲 第3曲 アダージェット 4:02
4.第1組曲 第4曲 カリヨン(鐘) 5:07
5.第2組曲 第3曲 メヌエット
6.第2組曲 第4曲 ファランドール 3:54
指揮/エルネスト・アンセルメ
演奏/スイス・ロマンド管弦楽団
録音/1958/04 ヴィクトリア・ホール、ジュネーヴ
米LONDON STS 15052
レコード時代はアンセルメとストコフスキーのディスクは見つけ次第購入していました。ただし、国内盤は対象外です。小生のシステムで聴いても、国内盤と輸入盤は音に歴然とした差がありました。最近、デッカーロンドン系はイギリスからメタルマスターが送られてきていたことがわかりましたが、再発はその限りではありません。
デジタル時代になってその差はゼロに近づいたとはいえ、数値には表れない微妙な差はあるようです。まあ、こういう体験があるもんですから、レコード時代は個人輸入でイギリスやアメリカから直接買い込んでいました。そんなこともあり、CD時代になっても輸入盤を購入の中心に据えていました。
LP時代はそれなりに評価されていたアンセルメですが、CD時代になってからほとんど注目されませんでした。発売されるCDも単発でそれも、名曲路線中心のものでした。これは、輸入盤でも同じ傾向でいささかがっかりしたものです。ストコフスキーは世界に愛好会がありますが、アンセルメはそんな話しは聴いた事がありません。僅かにこちらのホームページにディスコグラフィがあるぐらいなものです。しかし、2013年から14年にかけてアンセルメの残された録音が大挙して3つのボックスセットで発売されました。その前にもオーストラリアのエロクァンスシリーズで数々の未発売CDが登場していたのが伏線としてありましたがね。
ファンとしては嬉しい限りですが、どういう物かアンセルメの録音はLPで聴くのが一番似合っているような気がするのです。という事で今回取り上げるのはレコードです。このレコードも個人輸入ものですが、一つ難点がありました。それは表のジャケットはまともなものですが、裏面は何と別のレコードの解説が印刷されているのです。裏は、モーツァルトのピアノ協奏曲第27番、バックハウスとベームによる名盤の解説です。まあ、こんなミスのあるレコードでしたが中身は正真正銘の「カルメン」であり、「アルルの女」ですから視聴には問題がありませんので、そのまま所有しています。
このレコードを聴いてはっきりいってアンセルメの印象が変わった事を覚えています。それまでの音は、どちらかというとクールで見通しの良い演奏でどことなく分析的だなあ、という印象から、これはただの数学者じゃないぞ!というふうにイメージが変わったのです。その頃まで、同じような分析的なマルケヴィッチの演奏とかアットホーム的なクリュイタンスの演奏は聴いていたのですが、このアンセルメの演奏は、激情型のカルメンでありアルルの女であってフランス的というよりは情熱的なスペインをイメージした音楽が繰り広げられていたのでした。
それとこれがロンドン盤である事も影響していたのかもしれません。当時はデッカの録音はイギリスではデッカのレーベルで、アメリカや日本では商標の関係でロンドン・レーベルで発売されていました。原盤は同じでこのレコードもZAL4096の刻印があります。しかし、レコードを手に取ってみると分かるのですが、盤自体の重さはロンドン盤の方が若干ずしりと重たいのです。プレスもmade in englandで同じなのにこれはどういった事なのでしょうか。そんなこともあり、個人的にはロンドン盤の音質が気に入っていました。今は手放してしまいましたが、ドラティのハイドンの交響曲全集は欧米では分売されていました。それを一セットづつ買っていったのですが、時期によりイギリス盤が安い時とアメリカ盤が安い時があり、我が家の全集はそれが混ざっていたのです。で、聴いてみると前述のような違いがあるんですね。これは動かし難い事実でした。ただ、このレコードのジャケットのようにアメリカ盤は作りが雑というという印象はあって、どちらが良いとは一概にはいえませんでした。
さて、これも元々は名盤の誉れ高い演奏です。で、改めてアンセルメの素晴らしさを知った次第です。カルメンの前奏曲冒頭のシンバルの一撃は衝撃的です。ここに低弦のごりごりというリズムが後押しします。「私は楽譜に書かれた事を忠実に演奏をする。」と常々語っていたアンセルメにしては微妙にテンポを動かし、劇的なオペラの表現を取り入れています。フランス物のオペラは少なからず録音しているアンセルメですが、ビゼーの作品は管弦楽曲しか録音を残していません。それだけに、こういう表情付けでヒゼーを演奏してくるとはちょっと予想外でした。
第2曲の「アラゴネーズ」や「第3幕への間奏曲」では木管楽器が活躍しますが、これが実にチャーミングです。この1950年代から1960年代当初にかけては木管楽器には名だたる名手が顔を揃えていましたから、まあこれは当然な事でしょう。そういう意味ではソロの妙技を楽しむにもこの演奏は最適でしょう。このことは「アルルの女」にも当てはまります。このレコードでは第1組曲は全曲収録されていますが、第2組曲からは「間奏曲」と「ファランドール」だけが収録されています。収録時間の関係でしょうが残念です。まあ、その分「ファランドール」も音のひずみも無く快適に聴き終える事が出来ます。決して前のめりになる事の無いリズムに乗って弦の短いフレーズが小気味よく響きます。そして、最後はテンポをあげながらコーダに突き進んでいきます。いゃあ、情熱的な「カルメン」であり「アルルの女」です。
ネットでこのアンセルメの演奏についての書き込みを検索していると、アルルの女の「ファランドール」の冒頭の音が欠落しているという記述を目にします。でも、これはコピーのマスターを使っている国内盤だから発生する問題で、本家デッカのマスターではこんな音の欠落はありません。ましてや、このレコードではそんな事を危惧する心配もありません。