グシュルバウアー/ピリスのモーツァルト
モーツァルト/
1.ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467
2.ピアノ協奏曲第26番ニ長調K.537「戴冠式」*
<ピアノ>マリア・ジョアオ・ピリス
テオドール・グシュルバウアー
リスボン・グルベンキアン管弦楽団*
リスボン・グルベンキアン室内管弦楽団
ERATO RECD-2843
P:不詳
E:不詳
録音:1974/04,1975/06*
これはRCAから発売されていた頃のCDです。エラートは詳細なデータの記載がないので不明部分はレコ芸のイヤー・ブックから補足していますが、それでも不明な点が多いのが玉にきずです。
今久しくグシュルバウアーの演奏を聴いていなかったのでライブラリーの中から引っ張り出してみた一枚です。このグシュルバウアーは最近はとんと名前を聞かなくなった指揮者の一人ではないでしょうか。70年代から80年代にかけてはエラートの看板指揮者みたいに使われていた時があって、結構モーツァルトの演奏には登場していました。いま、彼のCDを検索してみても合わせ物が少々あるぐらいでほとんど最近の録音は引っかかりません。1939年のウィーン生まれだから80近いの指揮者としてはベテランの域に達しているはずですが、エラートに見放されてからはぱっとしていないようです。最近ではオペラの録音が散見されるが一時の勢いはないないてすなぁ。ドイツ系の指揮者にしては線が細い部分があったのでメジャー向きではなかったのかも。検索したら2007年には読売日本交響楽団に客演していましたがその後はとんと音沙汰がありません。
でも、このCDで聴かれるモーツァルトは彼の最良のセンスが生きています。ピリスのピアノ共々楽しめる一枚で、レコード時代のオリジナルとはカップリングが違いますがいい組み合わせです。個人的には、この21番の第1楽章の冒頭は1984-5年のシーズンでNHKで放送された「マイコン大作戦」というテレビドラマのテーマとして使われたのでモーツァルトのピアノ協奏曲の中でも一番親しみ深い作品となっています。このドラマでは劇中で第2楽章のテーマも使われていました。もっとも一般的には第2楽章のテーマは「短くも美しく燃え」という映画で使われていたのでそちらの方が有名でしょうなぁ。
さて1曲目の協奏曲第21番からしてテンポは快調です。アバド/グルダの共演盤などはテンポが遅くて少々重苦しくかんじられます。こちらは少々編成の小さいオケで演奏しているようで見通しのいいサウンドが響きます。弦楽器の音が時々不揃いになってしまうのは惜しいが音楽はよく流れています。ビリスのピアノも軽快で粒のそろった柔らかい音色で好感が持てます。70年代に1回目のピアノ・ソナタを全曲録音しモーツァルト弾きとして成長株であったし、全集になっていないのが残念だがエラートにもこの演奏を含めて記憶では9,13,14,27,23番を録音していたはずです。
第1楽章は尻上がりに調子が上がりピアノとの絡みも十全で聴き進むほどに入り込んでしまう。オケとピアノのバランスといい掛け合いといい申し分なくチャーミングで天真爛漫、明るいモーツァルトが聴かれる。モーツァルトはこうでなくっちゃ。
第2楽章はひたすらヴァイオリンの奏でる主題のメロディの美しさに惹かれる。そこにビリスのピアノが寄り添うように入ってきて、至福の一時が流れます。第3楽章ははつらつとしたアレグロ・ヴィヴァーチェでいい意味ピアノとオケがぶつかりながら調和して音楽が生まれています。
ピアノ協奏曲第26番も同じオーケストラの演奏ですが、こちらは編成がやや大きくフル・オーケストラです。といっても聴感上の違いはそれほど感じ競れません。強いていえば音場がやや遠目の設定になっていることでスケール感が出ていることか。しかし。21番と26番は楽器編成は同じ編成で書かれているのでなぜ曲によってオケの編成を替えたのかは解りません。まあ、内声部が充実して申し分のない響きにはなってはいます。
第1楽章からスケール感のある演奏でビリスのピアノもこちらの方がより積極的な歌い回しが聴くことができところどころではっとさせられる発見がある。そしてまるでモーツァルトと音の掛け合いを楽しんでいるような余裕すら感じさせる。グシュルバウアーはさりげなくサポートしているようでこちらも前に出るところはきちっと主張していて個性的な響きを鳴らしている。特に第3楽章でのティンパニの連打は強烈でいささか度肝を抜かれる。
後年、アバドと組んで21番は再録音しているが生気に満ちたこちらの演奏方が小生には好ましく感じられます。