新・古着屋総兵衛 にらみ
著者/佐伯泰英
出版/新潮社 新潮文庫
大黒屋に脅迫状が届いた。古着大市を取りやめぬと客を殺戮するという。影・九条文女との接見の帰途、総兵衛一行は怪しい霧に包まれ、南蛮鎧兜の集団により奇妙な飛び道具で襲撃される。総兵衛は諜報網のすべてを使って情報を集める。やがて、坊城麻子から有力な情報が届いた。禁裏と公儀の狭間に蠢く鵺のような役職があるという。総兵衛は一計を案じ、読売を使って敵を誘き出すことにした。---データベース----
新・古着屋総兵衛シリーズ第14弾。このシリーズも残すところあと3巻になっています。作者のライフワークといいながら、話がちよっと大きくなり過ぎて収拾がつかなくなってきたのでしょうか。何しろ大黒屋の一統はどんどん規模が膨らんできて、際限がありません。
年2回恒例「古着大市」を間近に控え、大黒屋に中止を求める脅迫状が届くという展開がメインです。そして、陰様(九条文女)にも大黒屋との交流を絶てと脅迫状も届きます。早速大黒屋による探索が始まります。すると新しい敵があぶり出されます。背後には元京都所司代・禁裏付の飯久保佐内(御目付に出世)と伊吹衆といった面々が浮かび上がります。南蛮鎧兜の面当てに毒艾が大黒屋と陰様を襲います。まあ、こちらにも薩摩転びの北郷影吉がいますし、同じ、伊賀甲賀に接する柘植衆もいますから伊吹衆のこともすぐ調べ上げられます。襲撃したきた伊吹集を返り討ちにし、捕らえられた伊吹衆の若者・伊吹のとび助から飯久保佐内の所在を聞き出し、影始末を決行します。ただ、とび助の懇願を聞き入れ、総兵衛は騙された伊吹衆一党を助命します。まあ、伊吹衆は基本的に金で雇われていただけですから裏切りも簡単です。そして、飯久保一味は成敗されます。ただ、地場の伊吹衆なのになぜ南蛮鎧兜のいでたちで襲ってくるのかは不明で違和感があります。
この巻のもう一つの目玉は古着大市です。そこにも当時の歌舞伎や演舞を取り込むことで大成功に終わります。ここしばらくはおこもあがりの忠吉の活躍が目立ちます。その語り口は氏の「鎌倉河岸捕物控」シリーズの金座裏の下っぴき亮吉とダブル部分があります。まあ、この忠吉を活躍させることで話の展開が面白くなっていることば事実でしょう。作者もそれを楽しんでいる風がうかがえます。この巻ではさらに大黒屋のメンバーに3びきの子猫のカツオ・シラウオ・サヨリの3匹が加わることになります。まあ、こちらは活躍することは考えられませんが、3匹の犬に猫と人だけではなく動物までにも一族は拡大していきます。
そんな中、古着大市の最後に伊吹衆のとび助が国に帰らず大黒屋の警備に参加しています。こちらも大黒屋のメンバーに加わるのかと思われましまたが、それはありませんでした。その後が描かれませんので尻切れとんぼ状態です。
まあ、第1シリーズの田沼意次のような強力な敵のいないこちらのシリーズはずつ新たな敵を作らねばいけない苦しい展開です。