新・古着屋総兵衛 故郷はなきや
著者/佐伯泰英
出版/新潮社 新潮文庫
鳶沢信一郎率いる交易船団がようやく越南に到着した。一行は政変時に離れてしまった総兵衛の母親今坂恭子の安否確認に総力を挙げる。一方、江戸では、丹石流の剣を遣う手練れの浪人筑後平十郎が総兵衛暗殺の刺客を請け負ったとの情報がもたらされた。平十郎は、稀代の名刀福岡一文字則宗に執心しているという。知恵者の小僧の忠吉は犬の甲斐を連れて何食わぬ顔でその長屋へと向かった…。 ---データベース---
新・古着屋総兵衛15弾。イマサカ号と大黒丸が10代目総兵衛の故郷・越南へ交易の船旅へ向かいます。そこで4年前の争乱で行方不明だった総兵衛・勝幸・ふくの実母の今坂恭子を探し出し、召使・トシコと共にイマサカ号に乗船させます。更には、越南に残る日系の川端二郎兵衛の紹介で越南国王・嘉隆帝に面会することに成功し、交易の段取りをつける。ここでは、再会した母の今坂恭子の存在が大きく寄与します。
一方、日本では富沢町乗っ取りを企む髪型から流れてきた古着屋の甲府屋與兵衛が、旗本用人を使い総兵衛殺しを浪人の築後平十郎の依頼します。この殺しの依頼の場面に北郷影吉が偶然遭遇します。そして、惣兵衛に報告し彼を見張ることにします。ただ、この築後平十郎元秋月藩では師範代を務めた旦石流の達人です。しかし、曲がったことは潔しとしない一本気な性格で、総兵衛の暗殺を請け負ったはずなのに総兵衛から名刀を送られると簡単に寝返ってしまいます。ここでも、おこもあがりの忠吉が仲を取り持ち、平十郎は忠吉を師匠と崇めます。この不思議な縁でその平十郎は総兵衛の長屋に住まい、形の上では大黒屋の用心棒として働くことになります。
さて、今坂号の交易も順調に進み、船団長の信一郎が託された新造船の発注もバタヴィアで叶うことになります。それも、製造中の帆船を利用することで、工期の短縮が見込める状態で手配することができます。ここでは、作者の当時のベトナムの様子やオランダの東インド会社無き後の当時の状況を知ることができます。今更ながら山田長政の活躍した時代以降の日本人が東南アジアの各地に残してきた足跡というものが決して小さくは無く、江戸末期でも綿々と残っていたことが思い知らされます。
例によって小悪人の甲府屋與兵衛の始末が行われ、浪人築後平十郎が大黒屋の一人として活躍します。