パーフェクト・ワールド | geezenstacの森

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パーフェクト・ワールド

 

著者/デュウィ・グラム 

翻訳/ 斉藤伯好 

出版/新潮社 新潮文庫

 

 

 1963年ハロウィーンの夜、ケネディの遊説をひかえて緊張するテキサスの重警備刑務所から、ブッチとジェリーが脱獄する。二人は8歳の少年フィリップを人質にして逃亡を計るが、少年に性的いたずらをしようとしたジェリーをブッチは射殺する。一方、ブッチを追うテキサス・レインジャー隊長レッドは、昔ブッチを少年院に送り込んだ人物であった…。ヒューマン・ドラマの話題作。---データ・ベース---

 

 タイトルに惹かれて読んだ作品です。古本で購入してカバーがなかったので、てっきりSF小説だと思っていました。何しろ翻訳がスタートレックシリーズでおなじみの「ボケねこ」こと斉藤伯好氏ですから。1990年代はほとんど映画を見ていなかったので、これが映画の原作とは思いませんでした。ネットで検索しても、この「パーフェクト・ワールド」は有沢 ゆう希の小説しかヒットしないという有様です。

 

 SFという期待は裏切られましたが、完璧な楽園“パーフェクトワールド”を目指して逃走する孤独な脱獄犯と人質となった少年の心の交流、脱獄犯を追う警察署長の苦悩を描いた犯罪ドラマとしては秀悦でした。もともと、映画の脚本から起こした小説ですが、最終決定稿の脚本をもとにしているということではまさに、パーフェクト・ワールドでず。中には映画のノベライズは全く違ったエピソードになっているものがあり、がっかりする作品も多々ありますからね。このデュウィ・グラムという人は他にも色々な映画のノベライズを手がけていて、「グラディエーター」とか「スニーカーズ」、「トゥルー・ライズ」なんかのノベライズを手がけています。

 

 映画のスタッフは、監督:クリント・イーストウッド、製作:デイヴィッド・ヴァルデス、撮影:ジャック・N・グリーン、音楽:エニー・ニーハウス、美術:ヘンリー・バムステッド、編集:ジョエル・コックスなど主要スタッフは、「許されざる者(1992)」をはじめとするイーストウッド作品の常連で占められています。

 

 キャステイングは主演にケビン・コスナークリント・イーストウッド。助演に ローラ・ダーン 、T・J・ローサー 、キース・ザラバッカ 、レオ・バーメスター 、ポール・ヒューイットらを配しています。初共演として脱出犯がケビン・コスナーでこれを追う警察署長クリント・イーストウッドというのが面白いキャスティングです。後書きを読むと、元々の脚本を主演のケヴィン・コスナーがいろいろ書き換え、監督のクリント・イーストウッドも登場するように手直ししたようで、2大巨頭の共演となった作品に仕上がったそうです。また、誘拐される子役T・J・ローサーの名演技も映画では見どころになっています。

 

 場面割りは小説の方が詳しく、後追いで映画を見た方がしっかり理解できるような気がします。この小説、大部は脱獄犯と少年の話ですが、ラストが脱獄犯を追う人情刑事の話で、これがイーストウッドというよく出来た作品でした。さらに時代が1963年ということで、ケネディ大統領暗殺事件を皮肉ったのではなかろうかという背景設定も楽しめます。何しろテキサス州はケネディが暗殺された土地ですからねぇ。これは、暗殺(1963/11/22)のほんの少し前の話ということになります。

 

 物語はハロウィンの前日からはじまます。アラバマ刑務所からふたりの囚人、ブッチとテリーが脱獄し、所長の車シボレーを盗んで逃走し、車を交換しようと立ち寄ったのがフィリップの家でした。8歳のフィリップは、家の宗教が「エホバの証人」で、ハロウインとは無縁の前夜祭に参加出来ず悔しい思いをしながら、家族と食事しているところに脱獄犯が侵入します。隣の住人に見つかりフィリップを人質に逃走します。

 

 テキサス州警察署長のレッドは事件の報告を受け、州知事から特命で派遣されていた犯罪学者サリーを伴って、ケネディ大統領警備用に作ったばかりのハイテク機材搭載指揮車で、脱獄犯を追うことになります。なんでこういうトレーラーが登場するのか訝しく思ったのですが、こういう背景があったんですなぁ。ところで、サリーはプロファイラーの専門家で、レッドは机上の理論は捜査に邪魔と思ったが知事の施策には逆らえず帯同します。

 

 

 形はロードムービーなんですが、この彼女のプロファイリングの力量は大したもので、逃走するブッチや所長の心理まで正確に分析してしまいます。

 

 逃走する中でブッチがフリップに、幼いころの父親との想い出を重ね、なんとしてもハロウインを楽しませてやりたいとう優しさが感じられます。確かにブッチは2人を殺害した殺人犯ですが、凶悪犯ではないのです。それは過去の事件でのレッドとの関わりでブッチは人生が歪められていったのでした。一方、フィリップはブッチをだんだん父親のように慕っていき、ふたりの微笑ましい親子の愛情物語になっていきます。そこに警察との駆け引き、スリリングなカーバトルが加わり、結構笑いもあり、いろいろと楽しめるよう工夫されています。まあ、脚本がよくできている証拠でしょうなぁ。

 

 心にグッとくる作品ですが、小説は古本でもほとんど見かけませんし、映画も失敗作でした。