小沢/エッシェンバッハの「皇帝」
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5パン変ホ長調Op.73「皇帝」
1.第1楽章 アレグロ 20:10
2.第2楽章 アダージョ・ウン・ポコ 8:57
3.第3楽章 ロンド、アレグロ 10:45
ピアノ/クリストフめエッシェンバッハ
指揮/小澤征爾
演奏/ボストン交響楽団
録音/1973/10/10 シンフォニー・ホール ボストン
P:トマス・モーレイ、フランツ=クリスティアン・ヴルフ
E:クラウス・ヒーマン
DGG MG2451
小澤征爾はベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番を3度も録音しています。2回めのテラークへ録音したルドルフ・ゼルキンと共演したものや、マルタ・アルゲリッチとサイトウキネンとの今日円盤が有名ですが、一番最初に録音したのはこのエッシェンバッハでした。多分ほとんど忘れ去られている録音ではないでしょうか。実はこの録音、小沢=ボストン響が一番最初にリリースした協奏曲ディスクでした。
国内盤のレコードジャケットはまさにこの録音をしているセッション風景を使っています。床に楽譜を広げ、1日でのセッション録音に集中ている姿勢が見て取れます。エッシェンバッハはこの当時はグラモフォンの専属でしたが、ついにベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を録音することはありませんでした。残されているのは1番、3番、そしてこの5番だけです。バックはバラバラで、1番はカラヤン/ベルリンフィル。3番はヘンツェ/ロンドン交響楽団です。
録音当時小沢は38歳、対するエッシェンバッハは33歳でした。まあ、ほぼ同世代と言っていいでしょう。この時までに小沢は数々のソリストとの共演を録音しています。まあ、合わせ上手というものでしょう。グラモフォンはケンプがすでに労協でしたから次世代を炊くせるのはこのエッシェンバッハだったのですが、今ひとつそういう重圧に耐えられなかったのか、協奏曲もピアノソナタも全集としては完成させていません。そういうものにこだわりがなかったのでしょうか、同世代のバレンボイムやアシュケナージがピアノと指揮者として大成しているのに対して、エシェンバッハはほぼ指揮者一本に絞ってキャリアを築いて行きました。
まあ、そんなこともありいい演奏は残しているのですが、まとまりがないということで今はほぼピアニストとしてのキャリアは忘れ去られています。ですから、この録音はピアニストとしてのキャリアを聴ける貴重な一枚と言っていいでしょう。合わせ上手ということで、小沢は一歩引いた形でエッシェンバッハをサポートしています。で、この当時はグラモフォンのボストンでの録音スタッフはほぼトマス・モーレイが担当しています。そのせいか、音作りはいつものグラモフォンの音響バランスより、のちに小沢=ボストンがメインで録音していくフィリップスのサウンドに似た響がしています。
実はゼルキン盤も所有していますが、世間の評判の割にテラークの録音は大したことはなく、音が平板に聞こえたり、強靭なはずのゼルキンのタッチがそれらしく聞こえないなどちょっと違和感を感じる部分が多いのであまり、聴く機会は多くありません。で、このエッシェンバッハ盤を聴く機会の方が多いのです。若々しい青年二人の共演といってしまえばそうなんですが、エッシェンバッハのスケール感こそやや物足りないものの上品な感じの「皇帝」に仕上がっています。
第1楽章のテンポはのちのゼルキンバンとはほぼ一緒で、やや早いぐらいです。エッシェンバッハのテンポに合わせているといったらそれまでですが、落ち着いたテンポで堂々とエッシェンバッハは音楽を作っているということでしょう。
ただ、第3楽章だけは反対にエッシェンバッハがやや慎重すぎて躍動感が不足しているのがちょい時になる演奏で残念で
す。