新・古着屋総兵衛10 異国の影 | geezenstacの森

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新・古着屋総兵衛10 異国の影

 

著者/佐伯泰英

出版/新潮社 新潮文庫

 

 

 新栄橋完成に沸く大黒屋に、深浦の船隠しを監視する眼を報告してきたのはおこも姿の忠吉だった。監視小屋には、オロシャと思われる文字が記された絵図面、貨幣等が残されていた。多くの証拠を残したことに総兵衛は疑念を募らせる。一方、幕府鉄砲玉薬奉行配下が大黒屋周辺を嗅ぎ回る。正介の秘密に感づいたのか。折から信一郎率いる交易船団が一年弱の航海を終え戻ってきたが…。---データベース---

 

 久しぶりに「新・古着屋総兵衛」に戻ってきました。このシリーズは旧作も含めてずっと読んでいますが、なぜか前巻となる「たそがれ歌麿」以後間が空いていました。前巻の記事を認めたのが2016年の7月ですから丸っと4年間が空いています。しかし、続きを読み始めても全く空白スーがあったとは感じられず、続きのストーリーを楽しむことができました。今思えば、この「たそがれ歌麿」は本編とはあまり関係がなかったのでがっかりして続編を読む気が失せたんでしょうなぁ。やはり総兵衛にはきっちりとした敵が存在しないとつまらないとも言えます。その点この卷には、対立する勢力が複数登場しますから読んでいて飽きるということはありません。この卷の章立てです。

 

目次

第一章 小僧二人

第二章 江尻湊の舟隠し

第三章 オロシャの影

第四章 松前藩の野望

第五章 交易船団戻る

あとがき

 

 この話は文化元年の出来事ということになっています。季節的には旧暦の夏から秋にかけての展開です。タイトルにある「異国」はオロシャが登場するのでてっきりロシアのことかと思いがちですが、実際にはエゲレス、つまりはイギリスのことです。そこに、大黒屋の小僧二人が絡みます。一人は「おこも」だった忠吉ともう一人は柘植一族からは「だいなごん」と呼ばれていた正吉のことです。この二人がこの巻では全編を通して登場します。

 

 展開の中では大黒屋の隠し湊の「深浦」が異国に監視されていることがわかり、監視所を調べるとロシアを匂わせる遺留品がいくつか発見されます。まあ、これが話を撹乱させる原因にもなるのですが、調べを進めるうちに蝦夷の松前藩が以前から大きく絡んでいることがわかりますし、その後ろで接近しているのはロシアではなくイギリスの測量船であることがわかります。それも今に始まったことではなく、今の十代目の惣兵衛ではなく九代目の時代から見つかっていたことが明るみに出ます。

 

 そんなこともあり、大目付の本庄豊後守義親をも巻き込んだ事件に発展します。また、本庄邸からの帰りには何者かにつけ狙われるという事件も発生します。流れの中で、幕府の鉄砲玉薬奉行が大黒屋に現れ、正吉を連れ戻しにかかります。起点を制して、惣兵衛は正吉を事前に交易船団の帰湊を毛帰るために深浦から江尻湊へと連れて行きます。

 

 なぜ、正吉が鉄砲玉薬という組織に狙われているのかは、元薩摩の密偵北郷陰吉が調べ回ります。京都からのもどり道の板橋宿で将吉が癇癪玉を破裂させたことがあったのですが、その時の事件を鉄砲玉薬の役人が密かに観察していたというのです。これでその子供を調べるということで正吉にたどり着いたというのです。うまく話をつなげたものです。ただし、このエピソードにはほころびもあり、大黒屋に現れた鉄砲玉薬の面々に対応したのは忠吉だったのですが、その忠吉を鉄砲玉薬奉行から呼び出しがあった時、忠吉を正吉と偽り連れて行ったのですが、ここで、本来は正吉が偽物だとバレてしかるべきなのにそういう展開になっていないことです。これはストーリーとしては破綻していますなぁ。

 

 そんなこともありますが、交易船も無事戻り、その商品でその年の秋の古着市も成功裏に終わります。めでたしめでたしのハッピーエンドでこの間は締めくくられます。

 

 登場人物がどんどん増えていくこのシリーズ、その交通整理だけでも大変で、読み手も前作までの流れを掴んでいないと戸惑うこと暫しです。