探偵・日暮旅人の残り物
著者/山口幸三郎
出版/カドカワ・メディアワークス
目に見えない物を“視る”力を持った探偵・日暮旅人の物語、番外編の第2弾。旅人を『アニキ』と慕うユキジ。複雑な雪路家の家族の形を描く――『雪消の隘路』。いつもクールな仕事人間、増子すみれ刑事の意外な休日とは――『花の夕影』。
「探し物探偵事務所」に秘められた、秘密の物語――『ひだまりの恋』。本編で語られなかったエピソード3本に加え、花まつりを舞台に起こる事件を、主要人物総出演で描く長編『祭りのあと』を収録。---データベース---
このシリーズの本編、番外編含めての最終巻です。この間でついに百代灯衣ちゃんもいよいよ小学生です。それも含めて最終のエピローグが語られています。それ以外はシリーズ中の本編に含まれなかったエピソードが収録されていますが、読む方にとっては時系列がバラバラなのでいささか混乱するところもあります。この巻の章立てです。
目次
雪消しの隘路
花の夕影
ひだまりの恋
祭りのあと(前編)
祭りのあと(中編)
祭りのあと(後編)
あとがき
ストーリー的には半分以上を占める「祭りのあと」を真ん中に挟み、「ひだまりの恋」を最後に持ってきた方が一般の読者にはわかりやすいでしょう。この話が「日暮お悩み相談所」の後日談になります。ですから、本来のシリーズはここで終了しています。つまり、前半3作品はどの作品も「了」で完結していますが、「祭りのあと」は「つづく」形式でつながり、最後は何も記載がないからです。ということではちょっと座りの悪い結末です。
「祭りのあと」は登場人物の顔ぶれから前年のゴールデンウィーク前後のストーリーと考えられます。この物語には「吹部」が登場し、そちらの話がメインになっています。これなんか、以前取り上げた赤澤竜也氏の「吹部」を彷彿させる展開になっています。まあ、それに加えて、増子刑事の私生活まで登場し、こちらは太田忠司氏の「ミステリなふたり」を彷彿させる展開にニンマリしてしまいました。増子刑事は結婚していたんですなぁ。「花花フェスティバル」を中心に鈴松高校吹奏楽部のナイトパレードが描かれていきますが、こちらはすりグループの事件がらみで少々複雑な展開になります。これにまたしても今井聡が絡んで事件が複雑になり、さらに本編とちよっと辻褄が合わない形で見生美月まで登場させて、さらに、現市長と前市長の登場まであり、まさにオールスター体制の3部作になっています。駄目押しのようにマジシャン兄妹まで登場させるなんざ、作者は結構遊んでいます。
さて、作者は最後にチューリップの花言葉の問いを発して終わっています。代表的に意味は「博愛・思いやり」です。ただ、チューリップの花言葉はその色によって様々あります。たとえば、
赤----------愛の告白
ピンク-----愛の芽生え・誠実な愛
オレンジ--照れ屋
黄色-------実らぬ恋
緑色-------美しい目
白----------失恋・新しい愛
紫----------永遠の愛
斑入り----疑惑の愛
などとなっています。そして、ここで登場しているのは青いチューリップ、しかし、青いチューリップにはまだ花言葉がありません。