ブリテン、リヒテルのデュオ・ライブ | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

ブリテン、リヒテルのデュオ・ライブ

 

曲目/

1.モーツァルト/四手のためのソナタハ長調 K521 

I Allegro    12:59

II Andante    7:46

III Allegretto    7:36

2.2台のピアノのためのソナタニ長調 K448 

I Allegro con spirito    7:48

II Andante    9:59

III Allegro molto    5:57

3.シューベルト/アンダンティーノ変奏曲 D.823

Andantino    1:10

Variation I    1:21

Variation II    1:13

Variation III    1:15

Variation IV    4:12

4.ドビュッシー/白と黒で

憤激をもって Avec emortement    4:32

ゆるやかに暗く Lent. Sombre    7:34

スケルツァンド Scherzando    4:10

 

ピアノ/スビャトスラフ・リヒテル、ベンジャミン・ブリテン

 

録音 1966/06/19 オールドバラ教区教会 1

   1967/06/20 スネイプ・モルディングス 2,4

   1965/06/22 ジュビリー・ホール、オールドバラ 3

 

DECCA POCL-4820

 

 

 BBCにはこういった音源がアーカイヴされているので目が離せません。名指揮者ブリテンが主催していたオールドバラ音楽祭で実現した夢の組み合わせの一枚です。当時、ブリテンは作曲家で指揮もこなしねさらにピアノまで弾くという八面六臂の活躍でした。いずれも一応ステレオのライブ録音ですが、音の貧弱さを補ってあまりある感動がこの演奏から伝わってきます。希代の巨匠であるリヒテルは別として、ブリテンは作曲家であって職業ピアニストではありません。しかし、多才な人で指揮をさせたらそこらの三流よりは上手いしピアノだって捨てた物ではありません。こうして趣味ではなくちょくちょく音楽祭に顔をだて著名人といろいろ共演しているのですから・・・

 

 このCDの中ではやはり、モーツァルトの作品が興味を引きます。一番最初に聴いたのは2006ねんに放送されたドラマ「のだめカンタービレ」で一躍注目を集めた2台のピアノのためのソナタです。どうしても、聴き始めると最初の2小節で間違え、千秋に張り飛ばされるのだめを思い出してしまいます。多分、この曲は「のだめカンタービレ」を知らなかったら生涯で合わなかった曲かも知れません。

 

 もちろん、ここではプロのリヒテルが第1ピアノ、ブリテンはセカンドを受け持っていますが、どう聴いても二人の実力に差は感じられません。お互いがパートナーを損なうこと無く自らの個性をベストのコンディションで披露しています。ブリテンはモーツァルトの作品をこよなく愛して録音も多数残しています。しかし、自らピアノを披露した録音はそれほど多く残っている訳ではありません。それだけにこの録音は貴重です。

 

 第1楽章は気負い込むこと無く和んだ雰囲気の中ですが、がっぷりと四つに組んでの演奏が展開されます。この60年代中頃は毎年のようにデュオを組んでいますから気心は知れているんでしょうね。リヒテルのピアノが左にブリテンのピアノは右に聴こえます。

 

 

 第2楽章はゆっくり目のアンダンテで、お互いの音を楽しみながらささやかなくつろぎの雰囲気を醸し出しています。リヒテルというと強靭なタッチでのピアニズムを連想しがちですが、ここではモーツァルトの優しさに満ちたタッチでアンダンテを堪能出来ます。

 

 

 第3楽章は疾走です。アレグロ・モルトなのですから当然ですがこの早さで合わせるのですから大変です。現にリヒテルはのちにブリテンとは合わせにくかったと述べているほどですから・・でも、そこはプロ。きっちり仕事して名演に消化させています。

 

 

 1曲目の4手のためのソナタはピアノはやや左側に定位しています。二人並んで演奏するのですからお互い遠慮があるのでしょう、所々ミスタッチが散見されます。それでも、ライブならではの熱気が伝わってきます。この第1楽章はゆっくり目のテンポでじっくり弾き込まれています。通常9分ほどの演奏が13分弱と時間をかけていますがこれは繰り返しをきちんと実行しているからです。まるで違う曲のような印象になりますが、スケールの大きな演奏です。

 

 この演奏、実は初めての発売ではありません。モーツァルトの2曲は1993年にM&Aというところから一度CD化され、日本ではキングからKICC2271という番号で発売されたことがあります。でも、その時はあまり話題にはならなかったようです。

 

 シューベルトは8分足らずの小曲ですがアンダンティーノの深みを体験出来ます。

 

 締めを飾るのはドビュッシーの「白と黒とで」です。この作品もこのCDで初めて知りました。まだまだ道の作品型いうあります。クラシックの奥は深いです。これは晩年の作品なんですね。色彩感溢れる作品で多彩な響きはオーケストラ作品に引けを取りません。ここでも、2台のピアノが対等に渡り合い緊張感溢れる演奏が展開します。キラキラ輝く音色が多彩に変化します。最初聴いた印象では陰と陽の対比なのかとも思いましたが、そうではなくピアノの白鍵と黒鍵のことを意味しているのだそうで、ひたすらピアノの表現能力を追求していたドビュッシーの行き着いた頂点を示す作品の一つなのかもしれません。

 この演奏ではどちらの旋律をリヒテル、ブリテンが弾いているかは区別がつきません。それほど対等に渡り合っている演奏です。いやあ、すばらしい。

 

 3曲がセットになっている曲ですが第1曲は指揮者のクーセヴィッキー、第2曲はJ.シャルロ、そして3曲目はストラヴィンスキーに献呈されているという不思議な曲です。