探偵・日暮旅人の笑い物
著者/山口幸三郎
出版/アスキー・メディア
視覚以外の感覚を持たない青年・日暮旅人は、それらと引き替えに、目に見えないモノ―音、匂い、味、感触、温度、重さ、痛みを“視る”ことができる。痛みを“視る”ことができる。しかしその能力を酷使すると、旅人の視力は低下していくという。旅人が気になる保育士の山川陽子は、旅人からの誘いで、クリスマスを共に過ごすことになる。ついに自分の気持ちを伝える決意をする陽子だったが、その時すでに、旅人の目には異変が起きていた。果たして探偵・日暮旅人の目に映る『愛』の行方は―?---データベース---
このシリーズの第2部も色々な登場人物のエピソードを交えながら、怒涛のクライマックスに向かって突き進んでいきます。この記事を書いている時点では最終巻を読み終えています。前巻のクリスマスからの続きでスタートしますが、どうも二人の関係はすんなりとは進展しません。旅人の幼稚園時代の過去には口を閉ざしたままというのも、何処か腑に落ちません。この卷の章立てです。
目次
家の灯り
組織の礎
最良の1日
微笑みの代償
魔の手
目次は章ごとの一時が赤色で彩られています。この一字がその章のポイントを表しています。
■家の灯り
人見知りで懐かずすぐにお母さんを探してどこかにいってしまうような女の子だった灯衣、どことなく大人びた灯衣の2年前の様子から語られます。母親が灯衣を捨てて姿のくらましたのは2年前でした。そして、灯衣とともに雪路の元に射程としてつけられたのが亀吉でした。ここではその亀吉の身の上話も語られます。クリスマスの日は旅人と陽子はつかの間のデイトを楽しみます。旅人の仲間へのクリスマスプレゼントは特注の名前入りタグプレートでした。愛情いっぱいの素敵な話なのですが、どこか物悲しい…そんなクリスマスの夜の話は、最後に陽子がやっと旅人に告白しょうとしたら、まさかの旅人からの告白。でも旅人からの拒絶という形で終わります。
■組織の礎
もう過去の話かと思えばまたぞろテロリスト「天空の爪」が登場します。ただ、この話もひょんなことから旅人が関わることになり、警察とテロリストの交渉の中に旅人が絡みます。そして、警察では増子刑事がし世間の全権を任される中、テロリストの中に旅人がいるのを見つけ、無言の連絡の取り合いの中で事件を武士解決に導きます。ただ、この章は本編にはほとんど関係がありません。
■最良の一日
この事件も本編にはほとんど関係のない。サブストーリーです。前巻に登場した今井聡くんの半生が描かれます。まあ、ヤクザとチンピラの世界を描いています。時系列的に「組織の礎」が正月元旦の出来事で、こちらが変則的になっている「成人の日」が舞台になっています。一旗あげようとする今井聡ですが、考えは全て悪い方へと転んで生き、せっかくの雪路の手助けも無になってしまいます。しかし、最後には旅人が登場しヤクザの小金井と話をつけ、なんとか丸く収まります。そして、とんでもなくだらしない今井聡の成人式は聡の母親にとっての良き日となります。
■微笑みの代償
ヤクザの小金井伸介の学生時代の話まで遡り、一年後輩の巻田頼子との馴れ初めからスタートします。しかし、実家が暴力団幹という小金井の境遇のため、頼子との恋はむくわれることなく、破局します。辛い人生を歩む二人の30年後を描きますが、そこには頼子を誘拐した旅人がありました。旅人は小金井に2800万の身代金を要求します。小金井は交渉の駒として陽子を利用して取引現場に向かいます。ダークな旅人の一面が現れたと思いきや、目的地には頼子の経営する農園がありました。30年間の辛い人生を共に歩くことの意味を考えさせる珠玉の一片となっています。陽子は改めて旅人の側に寄り添うことを心に決めます。
■魔の手
最終巻へのプロローグとも言えるこの章は、ついに見上美月の本性が露呈します。雪路邸や陽子の勤める保育園の周りにたむろする不審なスタジャンの男、そして日暮英一を名乗る無差別爆弾テロから市長への脅迫文が届きます。そして、実際に駅構内で不審物が爆発します。犯行声明は日暮旅人になっています。
一方灯衣は亀吉に送られて保育園に行くところでした。探偵事務所のベルが鳴り亀吉が対応するといきなり刺されます。そして、灯衣は誘拐されます。いよいよ、舞台はクライマックスに向かって早いテンポで動き出しました。