ヴォーン・ウィリアムズ/タリスの主題による幻想曲 | geezenstacの森

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ヴォーン・ウィリアムズ

タリスの主題による幻想曲


曲目/
Ralph Vaughan Williams
1.Fantasia on a Theme by Thomas Tallis 14:23
Alexander Brott
2. Ritual 7:57
Edward Elgar
3. Introduction & Allegro for Strings (Quartet and Orchestra)Op.47 13:20
Pierre Mercure : Divertissement
4. Andante-Allegro 4:34
5. Adagio 4:20
6. Rondo 2:38

 

指揮/サイモン・ストリートフィールド
演奏/CBCバンクーバー管弦楽団、オルフォード四重奏団

 

録音/1986 
P:ANTON KWIATKOWSKI
E:DON HARDER

 

加CBC ENTERPRISES SMCD5044

 

 

CDの出始めの頃にがむしゃらに買い漁った頃の一枚です。その頃カナダのCD自体珍しかったのですが曲目も未知の作品が多いということで手に入れたものです。なにせ、タワーレコードは東京の渋谷にしか無くインポートCDを買い出しによく出かけたものです。渋谷はタワーレコードはもちろんシスコなどにも足を運びました。後はWAVE、最後に秋葉原に回って、ゼット、石丸電機とハシゴしたものです。これもそういう買い物ツァーで入手したものです。この頃カナダにはプレス工場が無かったのかCDの製造はスイスになっています。何しろ初期はあのナクソスでさえ日本プレスをしていたほどですからね。

 

 演奏しているのはカナダのバンクーバー管弦楽団です。解説によると1938年創立の放送局所属のオーケストラです。指揮者のサイモン・ストリートフォードは最初ヴァンクーバー交響楽団のヴィオラ奏者として出発しています。イギリス生まれで1984年からはケベック交響楽団の指揮者を1991年まで務めています。やはりイギリス音楽に造詣が深いようで他に発売されたCDもそういう関係のものが多いようです。

 

 さて、ヴォーン・ウィリアムズというと「グリーンスリーヴスによる幻想曲」でしょうが交響曲以外の作品で聴かれるのはこの「トマス・タリスの主題による幻想曲」ではないでしょうか。弦楽合奏によるこの曲は彼の出世作でもあります。デーリアスといい、どちらかというと地味なイメージですが、欧米ではこのレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの方がよく知られているということです。日本ではやたらホルストの方が有名ですがね。

 

 この作品で用いられている楽器編成は、3群に分けられた弦楽合奏です。即ち、典型的な弦楽オーケストラから成る第1アンサンブル、1パートにつき譜面台1台(つまり2人)ずつの小編成による第2アンサンブル(第1アンサンブルから離れた空間に置くのが望ましいとされています)、それと弦楽四重奏です。そういう意味でこの録音にはオルフォード四重奏団が別に参加しているのです。印象的なのは、ヴォーン・ウィリアムズが弦楽合奏のこのような空間配置を採ってオルガンに似た響きの印象を作り出していることであり、それによって弦楽四重奏に補強的役割をさせています。

 

 元々、この作品はトマス・タリスが1567年に書いたオルガン曲、「大主教パーカーのための詩編曲」の第3曲の旋律が原曲です。「グリーンスリーヴス」ほど親しみのある旋律ではありませんがじっくり聴くと佳曲です。サイモン・ストリートフィールドの指揮は主題をたっぷりと歌わせた陰影のはっきりとした演奏で、このオルガン的響きを再現しています。

 

 2曲目のアレクサンダー・ブロットなんて聴いたことも無い作曲家の作品です。カナダの作曲家であり、指揮者、ヴァイオリニストでした。過去形にしたのは2005年に亡くなっているからです。1945年から1958年までモントリオール交響楽団のコンサートマスターを務めています。その後指揮者に転身して、作曲もこなしたわけです。ここで演奏されている「Ritual」は1942年の作で、現代曲ですが無調ではなく、作風的には編成がヴォーン・ウィリアムズの作品と類似しているのでここに収録されたようですが、検索するとこの演奏が代表的なもののようです。

 

 次のエルガーの作品も編成的には同じです。弦楽合奏のために書かれていて、4パートのトップ奏者が弦楽四重奏として全体の合奏を融合し、バロック時代における合奏協奏曲のスタイルをとっているのが特徴です。ストラヴィンスキーらによって提唱された新古典主義の先取りともいえる作品で、少なくとも「エニグマ変奏曲」よりは聴き易い曲です。
 
 最後のピエール・メルキューレの「Divertissement」は1957年の作品です。電子音楽の作品も書いているメルキューレですから一番これが現代曲風といえる作風です。それでも、作品は新古典主義風でここでも弦楽四重奏がキーとなって活躍します。

 

 弦楽四重奏と弦楽オーケストラという珍しい組み合わせの作品集ともいえるこのアルバム、がむしゃら買いをしなかったら出会うことは無かったアルバムかもしれません。