クリュイタンスのビゼー
曲目/ビゼー
「アルルの女」第1組曲
1. Prélude : Allegro deciso - Andantino - Tempo primo // Andante molto // Un poco meno lento 7:05
2. Menuetto : Allegro giocoso 2:49
3. Adagietto : Adagio 3:09
4. Carillon : Allegro moderato 4:32
「アルルの女」第2組曲
1. Pastorale : Andante sostenuto assai / Andantino / Tempo primo 5:58
2. Intermezzo : Andante moderato ma con moto / Allegro moderato / Tempo primo 4:50
3. Menuetto : Andantino quasi Allegretto 4:19
4. Farandole : Allegro deciso (Tempo di marcia) / Allegro vivo e deciso 3:27
「カルメン」組曲
1,第1幕への前奏曲:Allegro giocoso 2:17
2.第2幕への間奏曲〈アルカラの龍騎兵〉:Allegro moderato 1:43
3.第3幕への間奏曲:Andantino quasi allegretto 2:18
4.第4幕への間奏曲〈アラゴネーズ〉:Allegro vivo 2:10
指揮/アンドレ・クリュイタンス
演奏/パリ音楽院管弦楽団
録音/1964/01/13−15
クリュイタンス晩年の録音ですが、未だに名盤に名を連ねるエヴァー・グリーンですな。クリュイタンスは、このヒゼーを録音した1964年にこのコンビで来日しています。大阪のフェスティヴァルホールの招聘で来日したのですが、大阪と東京、それに福岡でのみ公演しています。この時のプログラムは以下のようになっていました。
4月28日:フェスティバルホール
ラヴェル/スペイン狂詩曲
ラヴェル/マ・メール・ロア、組曲
ラヴェル/ラ・ヴァルス
ラヴェル/クープランの墓
ラヴェル/亡き王女の為のパヴァーヌ
ラヴェル/ダフニスとクロエ、第2組曲
4月29日:フェスティバルホール
ブラームス/交響曲第4番
ワーグナー/ジークフリート牧歌
ムソルグスキー/展覧会の絵
4月30日:フェスティバルホール
ベルリオーズ/海賊、序曲
フランク/交響曲
ドビュッシー/海
ストラヴィンスキー/火の鳥、組曲
5月1日:フェスティバルホール
ベートーヴェン/交響曲第3番
ベルリオーズ/幻想交響曲
5月2日:福岡市民会館
ベートーヴェン/交響曲第3番
ベルリオーズ/幻想交響曲
5月4日:フェスティバルホール
ラロ/イスの王様、序曲
ベートーヴェン/交響曲第7番
ミヨー/プロヴァンス組曲
ルーセル/バッカスとアリアーヌ、第2組曲
5月5日:京都会館第一ホール
ベルリオーズ/海賊、序曲
フランク/交響曲
ドビュッシー/海
ストラヴィンスキー/火の鳥、組曲
5月7日:東京文化会館
ラヴェル/スペイン狂詩曲
ラヴェル/マ・メール・ロア、組曲
ラヴェル/ラ・ヴァルス
ラヴェル/クープランの墓
ラヴェル/亡き王女の為のパヴァーヌ
ラヴェル/ダフニスとクロエ、第2組曲
5月8日:東京文化会館
ブラームス/交響曲第4番
ワーグナー/ジークフリート牧歌
ムソルグスキー/展覧会の絵
5月9日:東京文化会館
ベルリオーズ/海賊、序曲
フランク/交響曲
ドビュッシー/海
ストラヴィンスキー/火の鳥、組曲
5月10日東京文化会館
ベートーヴェン/交響曲第3番
ベルリオーズ/幻想交響曲
5月11日:東京文化会館
ラロ/イスの王様、序曲
ベートーヴェン/交響曲第7番
ミヨー/プロヴァンス組曲
ルーセル/バッカスとアリアーヌ、第2組曲
もともとこのパリ音楽院管弦楽団は創設当時からベートーヴェンを積極的に演奏してきたオーケストラで、ベートーヴェンが第9を完成した1924年の4年後に創設されています。そして、創設から5年間でベートーヴェンの全ての交響曲を演奏しているということです。この来日時に取り上げられている第3番と第7番のうち、第3番はその最初の年に演奏されているのです。この来日での曲目に取り上げられたのもうなづける気がします。また、ベルリオーズが幻想交響曲を書いたのが1930年ですから、このパリ音楽院の演奏会でベートーヴェンの交響曲を聴いて触発されたのは当然の成り行きだったのかもしれません。
また、クリュイタンスはミュンシュの後を継いで、1949年か1960年まで首席指揮者を務めましたが、その後も亡くなる1967年まで関係を続け、このオーケストラが改組されてパリ管弦楽団となったのはクリュイタンスの死が一つの引き金にもなったようです。
まあ、ウンチクはこれぐらいにして、このクリュイタンスのビゼーは全体に遅めのテンポで、このオーケストラの織りなすフランス音楽らしい美しい和音の重なりや響きが曲の素晴らしさを引き出しています。
特に「アルルの女」第2番になった瞬間に一気に雰囲気を変えてくれて非常に心地いいです。またフルートの音がダイレクトに飛んできており2曲ともに名曲を収録している今回は特に美しさが極まっています。
またもう1つの聴きどころとしては「プロヴァンス太鼓」です。
「アルルの女」組曲第2番にて登場しますが、これもCDのつくり上左サイドにハープと太鼓の音のバランスが当てられており生で聴いていているかのような仕上がりになっています。
「アルルの女」のファランドールや「カルメン」の前奏曲など早すぎず遅すぎずという形を作り安定感を追求したクリュイタンスの演奏は素晴らしいもので半世紀経とうとしている今でも評価され続けています。
クリュイタンスはカルメンは第1組曲しか録音していません。まあ、当時としてはLPの限界だったのでしょうなぁ、当時クリュイタンスと争って人気のあったのはマルケヴィッチでしたが、こちらもLP時代は組曲は全曲では発売されませんでした。
クリュイタンスはフランス人ではありません。お隣のベルギーはアントワープに生まれ公用語のフランス語以外にドイツ語も学んだ事からドイツ的な素養も身に付けていました。その為か彼がそもそも名声を得たのは1955年にフランス系として初めてバイロイトに登場したという経緯からしても分かるでしょう。そのせいかアンサンブルに雑なフランス人の指揮者に比べこの人の演奏は合奏が実にしっかりしているし、非常に計算し尽くされた響きのバランスに驚かされてしまう。まずはこの辺が仏パテ社を唸らせ、数々の名盤を算出し、それらを普遍的なものにしている要因だと考えます。もちろんフランス的な色彩感覚も抜群に素晴らしいものがあり、これほど色彩的な精緻さでクリュイタンスを越える演奏はちょっと他では見当たりません。なんでこんなに優雅で精緻で色彩感があるのだろう。陶酔感があるのだけど、つねに制御を失わず、熱狂的になっても理性を失わず、エレガントさを漂わせていました。
ドイツ音楽にも造詣があるということで、ドイツ系の曲目は、本場ドイツの名門ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を起用するケースが多かったのでしょう。それもあって、ベルリン・フィル初のベートーヴェン全集を録音を担い、1957〜1960年にベルリン、グリューネヴァルト教会におけるステレオ録音を残しています。もっと長生きをして欲しかった指揮者です。