ハルモニアムンディの東京カルテット | geezenstacの森

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ハルモニアムンディの

東京カルテット

 

ベートーヴェン/

1.弦楽四重奏曲第13番変ロ長調 OP.130

I.Adagio ma non troppo~Allegro    13:04

II.Presto    2:02

III.Andante con moto ma non troppo    6:58

IV.Alla danza tedesca;Allegro assai    3:34

V.Cavatina;Adagio molto espressivo    6:17

2.「大フーガ」変ロ長調OP.133    16:17

3.弦楽四重奏曲第16番ヘ長調Op.135 *

I.Allegretto    6:26

II.Vivace    3:21

III.Lento assai, cantante e tranquillo    6:49

IV.Grave ma non troppo tratto~Allegro    6:55

 

東京カルテット
マーティン・ビーヴァー (1Vn)
池田菊衛 (2Vn)
磯村和英 (Vla)
クライヴ・グリーンスミス(Vc)

 

録音 : op.130, 133/2008年8&9月 (東京 : 王子ホール)

op.135/2007年11月 (アカデミー・オブ・アーツ&レターズ)
(バード大学フィッシャー・センター・フォー・ザ・パフォーマンツ)

P:ロビーナ・G・ヤング、ブラッド・ミッチェル*

E:ブラッド・ミッチェル、サラ・クラーク*

 

仏ハルモニアムンディ NMX2908629

 

 

 これは仏ハルモニアムンディが2010年に限定発売した『「啓蒙主義の時代」~18世紀の音楽』という30枚組のボックスセットの中の一枚です。東京カルテットは晩年にライフワークとでもいうべきベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を再録音しています。彼らは2013年6月に解散していますから、これは最晩年の録音ということができます。ただし、こういう組み合わせのCDは単独では発売されていませし、全集はSACDで発売されていましたので、SACDに興味がない小生には選択の範疇外の代物でした。

 

 

 2009年に結成40周年を迎えていた東京カテット、ハルモニアムンディ・レーベルでのベートーヴェン全集を完成させました。各奏者の肩の力が完全に抜けた美しく柔らか、それでいて高度な緊張を保った音色は見事。緩徐楽章で四人が聴かせるゆったりと進む息の長いフレーズは、高い集中と緊密なアンサンブルがあればこそでしょう。

 このCDはもちろん通常のCDですから、我が家のプレーヤーでもちゃんと再生できます。この東京カルテットの演奏はもう一曲第18番が28枚目に収録されています。

 

 

 さて、このCDに収録されている第13番です。ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の、第13番から第15番までの3曲は楽譜が出版された順に作品番号が付けられたために、実際に書かれた順序とは異っています。第15番と第13番はほぼ並行して作曲が進められましたが、完成した順でいうと第15番→第13番→第14番です。後期の3曲の大きな特徴としては、それまでの古典的な4楽章構成ではなく、曲を追うごとに楽章の数が増えてゆくことが上げられます。それはベートーヴェンが既に外面的な形式から解き放たれて、自らの心の奥底へと深く入り込んで行った結果では無いでしょうか。実際、ここで聴かれる音楽の自由さ、深淵さは、既に書き終えていた9曲のシンフォニーをも凌駕すると思います。このCDはそういう意味で最後の弦楽四重奏曲を2曲収録した企画盤と言えます。

 

 実はこの13番、このCDでは初演時のオリジナルの形で収録されています。もともと、6楽章で書かれた巨大な作品なんですが、最後に置かれたフーガが難解すぎるということで、楽譜出版時は別の音楽があてがわれ、最終楽章はアレグロの楽章が置かれていました。で、フーガの楽章は別に切り離されてOP.135として別の作品に仕立てられたのでした。しかし、東京カルテットはここでは本来の形に戻し、第6楽章を「大フーガ」で演奏しています。いわゆる原点帰りでのスタイルをとったということでしょう。

 

 曲はアダージョで始まり、アレグロの音楽になります。そして、第2楽章はプレストという交響曲第9番のような構成で組み立てられています。枯淡の境地というか、ベートーヴェンの彼岸に至る最後の心境を音に託したような響きをこのカルテットは感でています。第5楽章のカヴァティーナでのえもいわれぬ優しさと温かさには、思わず熱い涙がこぼれます。そして、不協和音の響きで始まる第6楽章はまさに仏教で言うところの曼荼羅の世界です。

 

 個人的にはこの大フーガ、学生時代に先にオーケストラ編曲で耳にしました。オットー・クレンペラーとフィルハーモニアの録音で、ベートーヴェンにこんな雄大な作品があるんだと驚愕したことを覚えています。フーガといえば大バッハですが、ベートーヴェンはそう言う分野でも先逹の意志を継いだ作品を残していたんだと感心したものです。

 

 

 この録音は東京の「王子ホール」で収録されています。なかなかいい音のするホールのようで、4人の間に流れる空気、息遣いまでをも音楽的にとらえた素晴らしい録音です。

 

 最後の第16番ではもはやいい意味で枯れています。作品時代も小規模でまさにハイドン時代への先祖帰りの様式になっています。ただ、楽章構成においては第2楽章と第3楽章を入れ替えてスケルツォを2楽章に、そして第3楽章はレントとベートーヴェンの後期の様式に即した構成にしています。これがベートーヴェンの求めた様式美だったんでしょうなぁ。