カラヤンとモーリス・アンドレの共演
曲目/
テレマン(グレーベ編) トランペット協奏曲 ニ長調
1. Adagio 2:39
2. Allegro 2:07
3. Grave 2:35
4. Allegro 1:48
フンメル(ウーブラドゥー編) トランペット協奏曲 変ホ長調
1. Allegro con spirto 11:14
2. Andante 5:27
3. Rondo. Allegro molto 3:44
L.モーツァルト(ザイフェルト編) トランペット協奏曲 ニ長調
1. Adagio 6:59
2. Allegro moderato 4:28
ヴィヴァルディ(ティルデ編) トランペット協奏曲 変イ長調
1. Allegro 1:16
2. Sarabande 3:18
3. Presto 1:31
ヘンデル(ハーティ編) 組曲「水上の音楽」*
1. Allegro 2:39
2. Air 5:19
3. Bourree 0:45
4. Hornpipe 0:53
5. Andante espressivo 3:52
6. Allegro decisio 3:31
トランペット/モーリス・アンドレ
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1974/05/28-29 ベルリン・フィルハーモニー
1959/12 グリューネンヴァルト教会*
P:ミシェル・ゴルツ、ワルター・レッグ*
E:ウォルフガング・グーリッヒ、ホルスト・リンダー*
EMI 5121242
カラヤンBOX第1集に収録されていたモーリス・アンドレ(1933-2012)によるトランペット協奏曲集を聴いてみました。モーリス・アンドレはエラートの専属だと思っていたのですが晩年はそんなことは無かったんですなぁ。デッカにもこうしてEMIにも結構録音を残しています。カラヤンがアンドレとレコーディングを残していたとはこのボックスセットで初めて知りました。調べてみて分ったのですがアンドレはEMIにかなりの録音を残していますが、カラヤンと共演したのはこのCDの4曲分だけです。レコーでイングは1974年のようですが、アンドレとカラヤンの共演は、1968年8月31日、1970年6月21、28日の3回しか無かったようです。という事はこれは完全にセッション録音のための演奏であったという事でしょうか。それにしても、トランペットの神様モーリス・アンドレと帝王カラヤン/ベルリンフィルという豪華な組み合わせはこの1枚しか録音が残されていないという事で、貴重なセッションです。なお、最後の「水上の音楽」はこの全集だけにカップリングされたソースです。
オリジナルアルバムのジャケット
モーリス・アンドレはテレマンの協奏曲は何度も録音している曲ですが、こういう組み合わせが存在していたとはレコード時代はまったく気がつきませんでした。丁度社会人になりたての頃で、多分一番レコードから離れていた時代に当るんでしょうかねぇ。それにしても、EMIがこういうセッションを録音してくれたという事に感謝しましょう。カラヤンがバロック物を録音するというのは、夏の避暑でサンモリッツでベルリンフィルのメンバーとするのが恒例だったのでそれ以外のセッションというのも珍しいのではないでしょうか。最初のテレマンの協奏曲から聴き惚れてしまいます。
最初のテレマン(1681-1767)は緩-急-緩-急の4楽章で構成されたもので、第1楽章の緩やかな始まりから尋常でない演奏である事が分ります。テレマンのトランペット協奏曲は普通のトランペットより管の短いピッコロトランペットという楽器が使われます。つまり、ハイトーンが出る楽器ですが、この音域で吹き続けるのは、本当にきついのです。体力が要ります。それをアンドレはこの楽器をまるでおもちゃのように自在に操っています。まさに天才のなせる技でしょうな。ここでの演奏はチェンバロが使われています。クレジットはありませんが、カラヤンは多くのこうした作品で自身でチェンバロを弾いていますから、多分カラヤンが自身で弾いているのではないでしょうか。当然、この後主流になってくるピリオドスタイルの演奏とは違いますが、これはこれで完成されたスタイルの様な気がします。こんな演奏です。
第2楽章はアレグロですから軽快な音楽になって、チェンバロとの絡みも良いバランスで収録されています。まあバックがベルリンフィルですから心無しか重厚な響きになりますが、音楽は活き活きとしています。各楽章は2分少々と短いのが寂しい所ですが、第4楽章の最後の一音もハイトーンで締めくくられます。まったくモーリス・アンドレの名演を堪能出来る演奏で、これはグレーベの編曲の聴き所なんでしょう。ちなみに、アンドレは同じEMIにムーティ/フィルハーモニアと違う編曲でも録音しています。そこではこの演奏のようなハイトーンにはなっていないようです。
2曲目のフンメル(1778-1837)の協奏曲です。ハイドンとほぼ同世代の作曲家ですな。もともとこの曲はホ長調が原調なんですが、ここでは変ホ長調になっています。これはアンドレの2回目の録音ですが、1回目のエラートは原調での録音でした。演奏会ではこの変ホ長調での方が楽器の都合で扱いやすいといった事もあるのでしょう。ハイドンのトランペット協奏曲をはじめ、変ホの曲はたくさんあるためという事情でしょうか。比較的近年の1960年代前半に発見された曲です。テレマンとは違って3楽章で構成され、この録音では20分ほどかかる本格的な曲となっていますが、使われている音域が低くなっているせいか落ち着きのあるものとなっています。アンドレは出しゃばりもせずさりとて引っ込みもせず、カラヤンのバックとベストのバランスで朗々とトランペットを吹いています。特に第3楽章はティンパニが活躍する華やかな楽章で、ぐっと引き締まった表情の中での渡り合いが見事です。
3曲目はレオポルト・モーツァルト(1719-1787)です。モーツァルトの父としてその名は知られていますが、息子のプロモーターとしての役割が大きくて、うっかり忘れていますが自身ヴァイオリニストであり作曲家でもあった人です。よく知られた「おもちゃの交響曲」は、どうやら別人の作品ということで、それ以外の曲はあまり知りませんでしたがトランペット協奏曲なんて書いていたんですなぁ。とはいっても、中途半端な2楽章しかない作品です。テレマンと同世代の人なので、緩-急-緩の構成で書くつもりだったのでしょうか。何とも聴いた限りでは中途半端な感じで終わってしまう様な気がします。しかし、トランペット協奏曲としてはよく演奏される曲です。ここではレガートのカラヤンの語り口のうまさが光ります。どんな指揮者とも遭わせてしまうアンドレは、ピッコロトランペットを駆使して、落ち着きと晴れやかさとが同居したこの作品を見事に歌い上げています。これを書いていて気がついたのですが、協奏曲に名作が多いウォルフガング・モーツァルトですがトランペット協奏曲は書いていないんですねぇ。これって、父親への反発の意味もあったのでしょうかね?
最後のヴィヴァルディ(1678-1741)は、三つの楽章で6分ほどの短い曲ですが、ピッコロトランペットの高い音を響かせるきらびやかなものです。原曲はOp.2の4をのソナタをティルデが編曲したものです。スタイルとしてはここでも通奏低音としてチェンバロが活躍しています。そういう意味ではアンドレの他の録音よりもしっくりときます。それにしてもこの超絶技巧のタンギングには恐れ入ります。こういう演奏を聴くと、EMIはなぜカラヤンとの共演盤をこれ一枚で終わらせてしまったのが悔やまれます。ここでは、冒頭から超絶技巧が楽しめる第3楽章を聴いてみましょうか。