ナヌートのマーラー交響曲第5番
曲目/マーラー 交響曲第5番嬰ハ短調
1. Trauermarsch 11:50
2. Stürmisch Bewegt 13:12
3. Scherzo 15:29
4. Adiagietto 9:03
5. Rondo: Finale 13:41
指揮/アントン・ナヌート
演奏/リュブリアナ放送交響楽団
豪pickwick music PCC3013
日本ではこのアントン・ナヌートのマーラーの交響曲第5番はディアゴスティーニの「THE Classic COLLECTION」で発売されていますが、小生の手元にあるのはオーストラリアのキャッスル・コミュニケーションのpickwickレーベルから発売された2枚組のCDのものです。1991年に発売されたものですから、ディアゴスティーニ盤よりは古いものでしょう。録音についてのデータは記載されていませんが、多分1980年代中頃以降の録音でしょう。このアントン・ナヌートの国内盤はCD初期にキャニオンから一部発売されましたが、価格が高かった上になの知られていない演奏ものだったので発売されていたことすら忘れ去られています。そんなこともあり、ディアゴスティーニ(同朋舍)から発売された時は幽霊指揮者の扱いをされていたことが懐かしく思い出されます。確かに1枚目のワーグナーは明らかに幽霊指揮者のアルフレード・ショルツが登場していますからねぇ。
さて、肝心のナヌートのマーラーの交響曲第5番です。このディスクを手に入れた時、もう一枚ナヌートの指揮するショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」のCDも購入しています。これは米ストラディヴァリから発売されたものです。それもいい演奏でしたが、これも水準以上の演奏レベルの一枚です。
いきなり「葬送行進曲」から始まる第1楽章ですが、ここでは重厚さを控えた流れで、あまり深刻ぶらない演奏になっています。トランペットも伸びのある艶やかな響きで、多分スロヴェニア・フィルハーモニー・ホールでの録音と思われますが、左右にしっかりと音声が広がる聴きやすい響きです。テンポは中庸で、ほとんど揺らすことなく、淡々と音楽を構築しています。まあ、1980年代のマーラーとしてはすっきりとまとまっていると言っていいでしょう。
第2楽章も一言でいえばクールな演奏です。マーラーの指示は「嵐のような荒々しい動きをもって。最大の激烈さをもって」というものですが、ナヌートのテンポはこの指示に忠実です。店主テットなんかは店舗に揺れがあり、15分以上かけて演奏していますから、そういう演奏に比べるとあっさりしています。初心者にはこういう演奏の方がわかりやすいのではないでしょうか。ただ、一つ編集にムラがあり、9分20秒ぐらいのところで音飛びがあります。
第3楽章のスケルツオの主題は控え気味で早いテンポで進んでいきます。いろいろな楽器がオブリガートで登場しますが、トランペットが快調なのでこちょっとホルンが一本調子なのが残念です。
映画「ベニスに死す」で一躍クローズアップされたアダージョですが、ナヌートは最初ハープをクローズアップさせる反面、弦を押さえています。ただ、テンポがスローになるとやや弦のアンサンブルが揃わなくなり、ちょっと音の透明度が不足気味になっています。それでも、一般の演奏の中で9分台は早い方なんですけどね。
第5楽章はホルンで開始されますが、ここもやや一本調子なのが残念といえば残念です。この楽章もナヌートはやや速めのテンポでグイグイ推し進めていきます。そんなこともあり、次から次へと旋律が折り重なるような展開で、うまくオーケストラの弱点をカバーしています。聞いているぶんには目まぐるしく音楽が流れていくので楽しい演奏です。著名な指揮者のだらだらとした演奏よりははるかに聞きやすい演奏になっています。クライマックスの作り方も堂に入っていて盛大に盛り上がります。この演奏がディアゴスティーニに採用されたのはファンの拡大には役立ったのではないでしょうか。
これはこのpickwick盤だけの問題かもしれません(上の貼り付け動画ではそんな無茶な終わり方はしていないようです)が、コーダの最後の和音が完全に消える前に音がカットされています。これがこの演奏で一番残念なところです。