水戸黄門
天下の副編集長
著者:月村 了衛
出版:徳間書店 徳間文庫
『国史』が成らねば水戸藩は天下の笑いもの。一向に進まない編纂作業に業を煮やした前水戸藩主・徳川光圀公(実在)は、書物問屋の隠居に身をやつし、遅筆揃いの不届き執筆者どものもとへ原稿催促の旅に出た。お供は水戸彰考館の覚さん(実在)、介さん(実在)をはじめ、鬼机(デスク)のお吟など名編修者たち。まずは下田を訪れた御老公一行は、なにやら不可解な陰謀にぶち当たる!−−−データベース---
抱腹絶倒!パロディ版「」水戸黄門」です。サブタイトルの「天下の副将軍」ならぬ「天下の副編集長」という文字でもうそれは明らかです。ここまで徹底的にパッているとむしろスカッとします。ですからこの作品は時代小説だと思って読むと失望します。
登場人物は実在で、水戸光圀をはじめ、佐々介三郎宗清、水戸藩士・安積澹泊覚兵衛、そして「大日本史」を編纂する水戸彰考館も実際に存在していました。そういう設定を活かしながらも、この本の中では安積覚兵衛はこの彰考館の総長として、また佐々介三郎宗清も前総長と設定していますが、まずこれが嘘です。ふたりとも水戸藩師ではありますが、ただの家臣です。
水戸黄門といえば脇役陣が充実していますが、ここでも編集長のお吟(お銀-由美かおる)と風車の男(弥七-中谷一郎)が登場します。ただ、うっかり八兵衛が登場しないのはストーリーとしての
ちっとも締切りを守らない執筆者に業を煮やし、自らが原稿を取り立てるべく各地を旅する物語という設定状関係がないからでしょう。
章立てです。
1.天下の副編集長
2.謎の乙姫御殿
3.艶姿女編集揃踏
4.日本晴れ恋の旅立ち
ここでは印籠はあまりはじゅうような要素として扱われてはいません。なぜなら漫遊物語ではなく、原稿取り立ての旅だからです。この本では東海道を京へ下り、まずは下田で最初の取り立てですが、これが賭博で借金まみれで姿を曇らせた錫之原銅石です。ドラマでも一般的な設定で、悪徳代官と商人そして博徒が登場するというものです。
設定で大きく違うのは助さん格さんともに剣術はからっきしだめというところです。そこで花っから登場するのは矢車の男です。彼は幕府の隠密で伊賀者の忍者です。かく言う編集長のお吟も甲賀忍者のくノ一です。と正体が明らかになったところで第一話は終わります。それにしても悪役共が錫之原銅石を利用して春本の出版を企てていたとは・・・・
ところが第二話からは様相がガラッと変わりここからは光圀の国史に対抗する書物の出版を画策する豊臣の残党真田忍者が登場します。それがまた妖術を使うということで、バックボーンには浦島太郎の物語がベースに使われています。そこでまた真田のくノ一軍団が登場します。核もくノ一が登場するとはこれ如何に!?
相違エギNHKBSで二〇一三年から二〇一四年にかけて風野真知雄原作の「妻はくノ一」をが放送され千代っとしたくノ一ブームがあったことが思い出されました。その作品をリスペクトしていたんでしょうなぁ。
第三話は、多分平安の「三大歌合戦」をもしたパロディになっているのではないでしょうか。徳川方と真田-豊臣方の歌合戦をなぞってこの時代の端唄合戦です。いつの間にかお吟の妹弟子となるお鹿が登場し端唄合戦が始まります。ところが人数足らずの徳川方には風車の弥一郎も参戦します。さて、結果はという段になってヤンチャ娘の甲賀くノ一のお寅が登場してとんでもないことになってしまいます。
最終話は今度は題材がシェイクスピアの名作「ロミオとジュリエット」のパロディになっています。宿は「掛川」が舞台です。門田学館館長の門田露水鷗と伽備流史学館の才女珠理のふたりの熱愛が事件を巻き起こします。モンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットですな。そのパロディが時代エンターティメントとして展開されます。
登場人物は実在架空が入り混じってちゃらんぽらんなのですが、ストーリーとしてはしっかり原稿を受け取るというまとまり方をしています。まあ、最後の最後には格さんの掲げる印籠がなんとなく事件をまとめます。
小説としては四話で終わっていますが、現行最速の度は東海道のまだとちゅうです。登場人物の活躍が中途半端であるのと真田のくノ一軍団がまだ捕まっていないことを考えると十分に次回作はあり得るでしょうねぇ。