シュナイダーハンの モーツァルト「グラン・パルティータ」 | geezenstacの森

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シュナイダーハンの
モーツァルト「グラン・パルティータ」


曲目/モーツァルト
Serenade #10 In B Flat For 13 Wind Instruments, K 361, "Gran Partita"
1. Largo, Allegro Molto 9:58
2. Menuetto 9:24
3. Adagio 5:19
4. Menuetto, Allegretto 5:12
5. Romaze: Adagio 9:14
6. Tema Con Variazione 9:41
7. Rondo 3:20

 

指揮/アレクサンダー・シュナイダー
演奏/ヨーロッパ室内管弦楽団木管奏者

 

録音/1985/04/29,30 Forde Abbey サマセット州、イギリス

P:ジョン・ボイデン
E:ニック・パーカー

 

Brilliant 94251/46 (原盤ASV)

 

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 ブリリアントのモーツァルト全集の中に含まれている一枚です。このブリリアントの全集は自社ソース以外は色々なレーベルからのライセンスでまとめていますが、これはイギリスの「ASV」というレーベルの中の一枚です。もともとはデッカグループの「アーゴ」の創始者ハーレー・ウシルが、プロデューサーのジャック・ボイス、ケビン・デーリーらと供に起こしたイギリスのレーベルで、いわゆるメジャーレパートリー以外の充実を図っていたレーベルで1990年代にはHYPERIONやCHANDOSと並ぶイギリスの大レーベルでした。しかし、1999年に「Sanctuary Records Group」に身売りされ、さらに2007年にユニヴァーサルに買収されていて、今はほとんど市場から消えてしまったレーベルです。ですが、このヨーロパ室内管弦楽団の一連の録音は「Coe Records」という自主レーベルからリリースされています。

 

 そんな中の一枚がブリリアントのモーツァルト全集に組み入れられたのがこの録音です。そんなことで、管弦楽作品の多くが古楽器による演奏で収録されている中で、この一枚だけが現代楽器による演奏となっていて異色なのでよけい目に着きました。ここでは、ヴァイオリンの名手だったアレクサンダー・シュナイダーが指揮するヨーロッパ室内管弦楽団の演奏で収録されています。これは初出時は同レーベルへの第2弾として発売されていました(SCD1424)。このオーケストラはクラウディオ・アバドによって創設されたとよく資料には書かれていますが必ずしもそうでは無いようで、オーケストラのホームページでもsome of themとしか紹介されていません。

 

 しかし、このオーケストラの凄いのはそのメンバーです。ここでの演奏にもそうそうたる顔ぶれが登場しています。

 

オーボエ/ダグラス・ボイト
クラリネット/リチャード・ホスフォード
ファゴット/ロビン・オニール
ホルン/ジョナサン・ウィリアムズ
フルート/ティエリー・フィッシャー

 

 この中のダグラス・ボイトはヨーロッパ室内管弦楽団の創立メンバーの一人であり、2002年までその首席オーボエ奏者を務めていましたが、現在では指揮者として同楽団と定期的に共演しています。日本でも名古屋フィルハーモニー交響楽団を振って指揮者としてのデビューを果たし、その後すぐに再演が決定して好評を博しているほどです。また、フルートのティエリー・フィッシャーもこのオーケストラの首席フルート奏者として活躍、その後指揮者に転向し、2008年~2011年名古屋フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者として活躍しました。そんなことで、名古屋とは親近感のあるのがこのオーケストラです。その彼らがバリバリの現役時代の演奏がこの一枚に集約されています。

 

 ここで指揮を務めているアレクサンダー・シュナイダーはブダペスト弦楽四重奏団の第2ヴァイオリンとして、1932年 - 1944年と、1955年 - 1967年の二度在籍して活躍しました。また、カザルスらとカザルス音楽祭にかかわったり、マールポロ音楽祭にも携わっていました。そして、このヨーロッパ室内管弦楽団とも結成当時からかかわり、1988年にはオーケストラが「アレクサンダー・シュナイダー バースデイ・コンサート」を開催しているほどです。

 

 こういう信頼関係でシュナイダーハンは結成間もないこのオーケストラとモーツァルトを中心に数々のアルバムを残しています。ところで、ASVにはジーン・グラバーの演奏する一連のモーツァルトの録音がありましたから、こちらは2番手の扱いでした。そんなことで、ただでさえマイナーな上にこういう扱いであったためにあまり評判にならなかったみたいですね。日本でも当時契約のあったクラウンから発売(ASV13)されましたが、これもマイナー扱いみたいなもんですから、国内盤が出ていた事を知っている人もほとんどいないのではないでしょうか。しかし、このブリリアント盤で復活してうれしい限りです。ソロがきらりと光る味のある演奏です。

 

 

 曲は全部で7つの楽章から成りますが、その中でも第3楽章のアダージョは傑出しています。映画『アマデウス』において、サリエリが楽譜を読むだけでモーツァルトの才能を理解し失神するというシーンが描かれているほどです。確かに天国的な美しさですわな。

 

 

 この曲の楽器編成は、オーボエ、クラリネット、バセットホルン、ファゴットが各2本とホルン4本、コントラバス1本というものです。そのため「13管楽器のためのセレナード」とも呼ばれています。しかし元々、セレナードは野外で演奏されるものでしたから、コントラバスの代わりにコントラファゴットを用いて、文字通り、<13管楽器のため>の作品として演奏したものもあります。このヨーロッパ室内管弦楽団もコントラファゴットを用いているようです。

 

 
 この曲の第6楽章を聴いていて、あれ、どこかで聞いたことがあるなぁと記憶をたどっていくとモーツァルトのフルート協奏曲第3番の第2楽章に行き当たりました。この楽章変奏曲で出来ていて6つの変奏からなっています。ここでは、
第1変奏:オーボエによる3連符が特徴的な主題です。
第2変奏:クラリネットとバセットホルンが分散和音を演奏します。
第3変奏:クラリネット。32分音符に装飾されながら主題が演奏されます
第4変奏:オーボエとクラリネット。調性が同主短調である変ロ短調に転調されます。
第5変奏:オーボエとクラリネット。調性が変ロ長調に戻ります。アダージョにテンポを落とし,美しく装飾された主題を穏やかに歌います。
第6変奏:オーボエとバセットホルン。テンポがアレグレット,3/4となり,明快に楽章が締められます。

 

 うっかりするとクラリネットが主体となっているので、見過ごしがちですが、まさにフルート四重奏曲です。この年まで、「グラン・パルティータ」をいろんな演奏で楽しんできましたが、初めてその事実に気がつきました。モーツァルトは編曲の名人でフルート協奏曲第2番なんかは、オーボエ協奏曲と一緒ですからね。全集があると、そう言う事は簡単に比較して聴くことができます。このブリリアントの全集をお持ちの方は一度両方の作品を聴いて御自分の耳で確かめてみては如何でしょう。