フランス弦楽三重奏団
モーツァルト/弦楽三重奏のための6つの前奏曲とフーガ K.404a
曲目/モーツァルト
弦楽三重奏のための6つの前奏曲とフーガ K.404a
A1 No. 1 In D Minor 8:42
A2 No. 2 In G Minor 7:20
A3 No. 3 In F Minor 7:32
B1 No. 4 In F Major 9:52
B2 No. 5 In E-Flat Major 8:30
B3 No. 6 In F Minor 9:18
演奏:
ヴァイオリン/ジェラール・ジャリ
ヴィオラ/セルジュ・コロー
チェロ/ミシェル・トゥルニュ
発売:1966
P:テレサ・スターン
NONESUCH H-71112
ブリリアントから発売されているCD170枚からなる「モーツァルト全集」は所有していますが、こんな曲があるとはこのレコードを聴くまで知りませんでした。モーツァルトの研究もいろいろ進んでいて、この作品は今ではほぼ偽作ということで新モーツァルト全集からは除外されているということです。ということではwikiのモーツァルトの楽曲一覧にも収録されていません。ただ、レコードやCDではたくさんの録音が存在します。ということは取るに足らない作品ということではなく、それなりの魅力を持った作品ということができるのでしょう。ちなみにブリリアントの全集にも確認したら収録されていました。(^_^;)
このレコードが発売された1966年はまだ、モーツァルトの作品として認識されていたのでしょう。この作品は以前はモーツァルトがバッハを研究する過程で書いたと思われる曲として考えられ、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」等のフーガに前奏曲をつけた構成で6曲からなり、ヴァイオリン、ビオラ、チェロの弦楽三重奏に編曲されています。
状況証拠から以前は1782年にウィーンで書かれたと思われていました。フーガのもつ幾何学的な音のハーモニーに、モーツァルトの音楽の柔軟な美しさがブレンドされて、独特な空気感を感じさせます。
ちなみに、K404は「アンダンテとアレグレット・ハ長調」という作品で、ヴァイオリン・ソナタの39番として分類されています。こちらは、4分弱の可愛らしいヴァイオリン・ソナタの小曲です。
この作品が書かれたとされる1782年は、ウィーンで自立の道を選んだモーツァルトがマリア・テレジア女帝の侍医の息子ゴットフリート・スヴィーテン男爵を囲むサークルと関係をもっていた頃です。モーツァルトの手紙に下記の一文があります。
{{{1782年4月10日、ウィーンからザルツブルクの父へ
ぼくは毎日曜日の12時に、スヴィーテン男爵のところへ行きますが、そこではヘンデルとバッハ以外のものは何も演奏されません。
ぼくは今、バッハのフーガの蒐集をしています。 ゼバスティンのだけでなくエマーヌエルやフリーデマン・バッハのも。 それからヘンデルのも。 そしてぼくのところには、この・・・だけが欠けています。}}}
モーツァルトはこの庇護者の弦楽三重奏団のために、まず『平均率クラヴィーア曲集』のなかから3曲のフーガ、『フーガの技法』のなかから1曲、オルガン・ソナタ(2番)1曲、さらにW・フリーデマン・バッハのフーガ1曲を編曲した。 これらのうちの4曲には、緩いテンポの前奏曲をつけ加え、他の2曲のためにはバッハのオルガン・ソナタのなかの楽曲を前奏曲として利用したようです。この作品の構成です。
1.モーツァルト作の序奏と、バッハの平均率クラヴィア曲集第1巻第8番嬰ホ短調(BWV853)をニ短調に移調したフーガ。
2.モーツァルト作の序奏。 フーガは第2巻第14番嬰ヘ短調(BWV853)による。
3.モーツァルト作の序奏。 フーガは第2巻第13番嬰ヘ長調(BWV852)による。
4.序奏はセバスティアン・バッハのオルガン・ソナタ第3番第2楽章、フーガは「フーガの技法」第8番。
5.序奏はオルガン・ソナタ第2番第2楽章、フーガは同第3楽章。
6.モーツァルト作の序奏。 フーガはヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのフーガ第8番。
第1番ニ短調はバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻・フーガ嬰ニ短調VWB853を弾きやすいニ短調に移調してアレンジ、そして、その前に自作のニ短調のアダージョをつけています。原曲がオルガン曲ということで、序奏はゆっくりとしたアダージョで始まり、美しく情感豊かかな響きです。けっしてオルガンの響きを模倣しているわけではなく、モーツァルトはバロック音楽の様式を活かし、その中で古典派時代の三重奏の響きを導き出しています。
ここで演奏しているフランス三重奏団は1959年に結成されたトリオで、それぞれがソロで活動しつつも三重奏曲をフランスの香りを伝えながら幅広く活動して色々なレーベルに録音を残しています。ヴァイオリンのジェラール・ジャリなど結成後も1960年から1971年までパリのオペラ=コミック座のコンサートマスターを、1969年からユゲット・フェルナンデスの後任としてパイヤール室内管弦楽団のコンサートマスターを努めています。さらに、1984年から2002年まではイル・ド・フランス国立管弦楽団のコンサートマスターを務め、2004年に亡くなっています。
*余談
このアルバムをプロデュースしているテレサ・スターンはもともとは女流ピアニストで、ノンサッチとはプロデューサーとして契約し、ヨーロッパのいろいろなアンサンブルを起用して、大手の手がけないバロック作品を手がけ、このレーベルを大躍進させています。後には近代のアメリカ作曲家の作品もプロデュースしてこのレーベルの性格付けをしています。
teresa sterne