恋ほおずき | geezenstacの森

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恋ほおずき

 

著者 諸田玲子

出版社 中央公論新社

 

 江戸は浅草田原町。恋の痛みをいやしてくれる若き「女医者」がいた。自身も切ない過去を抱える女医は、叶わぬ恋に落ちてしまう。あろうことか、子堕ろしを取り締まる同心と…。連作時代長篇。---データベース---

 

 

 諸田さんの名前は、宇江佐真理さんつながりで知ってはいましたが、単行本としての作品はこれが初めてです。作品は、「婦人公論」に2002年9月号から2003年5月号に連載した小説を単行本にしたものです。江戸の人情物・恋愛物・捕物帖がひとつになったような話で、主人公の江与は中條流(俗に子堕ろしと言われています)の医者で、女医者を禁止しようとする奉行所の定町廻り同心の津田清之助に、反発し合いながらも魅かれてゆきます。

 

 当時の江戸の女たちの子堕ろしの実体を、俳諧談義など交えた 明るい話題とからめて描いています。タイトルの「ほおずき」は実は可愛らしいのですが、その根は漢方としては子堕しの薬になることからつけられています。

 

この本の章立てです。

目次

章ノ壱 初蛙

章ノ弐 施餓鬼舟

章ノ参 草紅葉

章ノ四 寒雀

 

 第1章は全体の半分を占めるほどのボリュームがあります。この本は堕胎がテーマのひとつですが、主人公江与と同心津田の恋、岡っ引き梅蔵親分の下手な俳句、町中で起きる事件、江与の家の奉公人夫婦の人情味等を上手く配置して、下手をすれば重く暗く説教くさくなる話を、そうはさせず、読ませる作品に仕上がっています。自分の過去を引きずりつつも信念を持って中条流の医者(堕胎医)を営んで生きている主人公江与(えよ)です。

 

 堕胎がテーマということもあり、吉原の花魁も登場します。ここでも子堕しの手立てを巡る葛藤があり、結論的には主人公も堕胎に賛成してるわけではないし反対してるわけでもないというスタンスで、母体の安否とともに命の大切さを訴えかけています。

 

 掲載雑誌が女性誌だった点をも考慮に入れると、現代に相通じる問題を通して現代人が忘れがちな倫理観を思い起こさせてくれる点はこの作品の価値をより高いものとしていると考えます。この作品と並行して、宇江佐真理さんの吉原の廃城をわかりやすく紹介している「甘露梅 お針子おとせ吉原春秋」を合わせて読むとよく理解ができるような気がします。

 

当時の吉原の概略

 

 一つ一つの話はタイトルで区切られていますが、すべて繋がっています。第1章で登場する悪ガキの平吉はのちに江与の薬作りの手伝いをするようになり、更には第2章では子さらいの犯人の探索にまで関わります。まあ、これで功をあげて子供ながら岡っ引きの梅蔵親分の使いっ走りにまでなります。この兵吉の成長の陰には同心の津田清之助の援助もあります。ストーリーの展開とともに江与に関わりのできた武士の妻があらぬ男の子を孕み、相談に来た後で、殺されてしまいいます。この妻の旦那は清之助の友がきでもありました。そんなつながりから江与と津田清之助は相思相愛になっていきます。しかし、津田清之助は実は妻子持ちなのです。

 

 ということで、二人は最後には不倫関係になってしまいます。ただ、江与は一度身分違いの恋の果てに子供が産めない体になっているのです。その二人の行き着く先まではここでは描かれていません。時代は女医禁止令の時代に突入していきます。最後は悩んだ末に、江与は中条流の暖簾を外します。

 

 ただ、友垣の果たし合いに立ち会い、二人で死線に直面した時に結ばれます。そして最後に江与は「たとえ答えが出ず、迷いのまま終わっても、目をそむけず真摯に心に問うて見なくてはいけない」と悟ります。夢と現実は表裏。二人が結ばれた後、「夢と現実の両方を呑む」と津田は江与に語ります。

 

 なんか最後には不倫を肯定しているような終わり方ですが、まあ、これは江戸時代。妾を持っても世間からバッシングを受けることもなかった時代です。流れとしてはこれでいいんでショゥかねぇ。考えさせられる一冊です。