13デイズ | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

 

Yahoo!ショッピング(ヤフー ショッピング)

13デイズ

 

著者 ティム ロリンズ 

翻訳 富永 和子 

発行 カドカワ 角川文庫

 

 一九六二年十月十六日、ソヴィエトの核ミサイルがキューバに配備されていることが判明、ホワイトハウスに衝撃が走る。ミサイルが発射されれば、全米の主要都市は五分で壊滅する。空爆か、海上封鎖か、また、フルシチョフとの交渉は可能なのか?一歩間違えれば全面核戦争の危機に、若き大統領ジョン・F・ケネディと閣僚たちが立ち向かった13日間のドラマ。---データベース---

 


 映画のノベライズ本と言うと、どこか上滑りの感がいなめないし、脚本と小説はほとんど乖離してしまうほどの差異があるものが多い中、この本(映画)は題材そのものがドラマであり歴史的事実であったがゆえに、軍部の好戦的な面を強調しているという側面がある(この為映画は国防省の協力が得られていません)ことは否めませんが、対立関係を際立たせることにより、一気呵成に読ませてしまう迫力があります。

 

 小説の舞台は平和の祭典であった東京オリンピックの2年前、1962年の冷戦まっただなかのアメリカ、ホワイトハウスが主舞台で、世界が核戦争に最も接近したと言われるタイトル通りの13日間の「キューバ危機」を描いています。時のアメリカ大統領は、ジョン・F・ケネディ。ケネディを支える司法長官に実弟のロバート・ケネディがつき、大統領特別補佐官として、ケネス・オドネルがいました。そして、このケネス・オドネルの視点から物語が語られていきます。

言うまでもないことだが、冷戦時代のアメリカとソ連は同等の武力=核兵器を持ち合うことで均衡を保っていた。巨大な力を持つ二つの国の、どちらか一方だけが圧倒的な武力を持つことは、世界を危機にさらすことになると考えていたからである。

 そもそも、キューバ危機はアメリカの侵攻を恐れたキューバが、友邦のソ連に武器の援助を申し込んだことに端を発します。しかし、戦争にも使われかねない武器を渡してしまうのはさすがにマズイと判断したソ連は、代わりに、核ミサイルをキューバ国内に配備します。

 核は戦争のための兵器ではなく戦争を抑止するための兵器である、という冷戦時代特有の、今日では理解できない発想が原点にあります。ですが、結果としてこれにアメリカが猛反発して、危ういバランスで成り立っていた均衡が崩れそうになるのです。

 もともと『13デイズ』は“ケネディ・テープ”と呼ばれるケネディ大統領自ら13日間の会議の模様を録音したテープや、ロバート・F・ケネディの回想録『13日間』、機密文書、そして映画ではケビン・コスナーが演じた実在の人物、ケネス・オドネルへの100時間にも及ぶロング・インタビューなどを基に練り上げられたといいます。

 

 どのようにしてソ連とアメリカの緊張が高まり、どのようにして最悪の事態、つまり第三次世界大戦を免れることになったのかが、非常にわかりやすく、かつスリリングに事実関係をドキュメント的に描いています。

 この「13デイズ」では、アメリカにとって「キューバ危機」は対ソ連であると同時に、国防総省やCIAとの戦いでもあった点が詳細に描かれており、それが非常に興味深いところです。戦争回避のホワイトハウスは軟弱な態度として、空爆を主張する主戦派の人々との対立と懐柔がストーリーの鍵になっています。

 彼らの強硬論をケネディ兄弟とオドネルが、いかにして抑えたかがこの小説の核心です。それが「13デイズ」で日々の展開を緊迫感ある描写でドキュメントタッチで描いていきます。

 

 人類が経験した核戦争の淵を歩く若き指導者達の苦悩と共に、この事実を風化させない為にも是非若い方々にも読んでもらいたいものです。下は映画の一シーンで、ミサイル配備の事実を偵察飛行するシーンです。