ショルティ最初の「巨人」 | geezenstacの森

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4月の散在 3

ショルティ最初の「巨人」

 

曲目

マーラー/交響曲第1番ニ長調「巨人」

I. Langsam. Schleppend. Wie ein Naturlaut – Im Anfang sehr gemächlich - 15:35 
II. Kräftig bewegt, doch nicht zu schnell - 6:55
III. Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen - 34:55
IV. Stürmisch bewegt 

 

指揮/ゲオルグ・ショルティ

演奏/ロンドン交響楽団

録音/1964/01-02 キングスウェイホール

P:ジョン・カルショウ

E:ジェームズ・ロック

 

LONDON SLC1788

 

 

 ショルティという指揮者は自分の中では不思議な指揮者です。そんなに録音を残している訳ではないのですが、どうもピアニストというイメージが強いのです。これは彼の自伝を読んでもあまりイメージは変わりませんでした。しかし、彼のプロフィールを見ると初期の段階からピアニストでありながら指揮も学んでいて早くから歌劇場で指揮者として活躍していたことが分かります。彼の膨大なディスコグラフィを見てもそのことは明らかで、オペラもオーケストラ作品も指揮するレパートリーの広さからすればカラヤンに匹敵するものを残しています。

 

 英デッカはそんなショルティの才能を早くから見抜いていて1950年代の後半からウィーンフィルとの録音を組んでいましたが、耳が良すぎるために結構トラブルを引き起こして忌ました。そんな状況の中プロデューサーのカルショーが組み合わせたのがこのロンドン響との録音でした。第3番こそコンセルトヘボウとの録音でしたが第2作のこの「巨人」に続いて、第2番、第9番、第3番と録音しています。しかし、1969年にショルティがシカゴ響の音楽監督に就任するとともにこのプロジェクトはシカゴ響にバトンタッチされています。まあ、機能性の点でシカゴ響の方がアンサンブルやパワーが上回っていたということでしょうか。

 

 そんな経緯がありますが、このロンドン響との「巨人」は1964年当時はベストチョイスだったのではないでしょうか。ここでのショルティはロンドン響のフレキシブルな柔軟性を活用し、ウィーンフィルには無い緻密なアンサンブルを十分に引き出して見事なマーラー像を描いています。一見ドライな演奏のように見受けられますが、いやいやバーンスタインでは描けない対照的なクールなマーラーを作り上げています。

 

 このマーラー、ゆっくりのテンポの美しい旋律は、とても《ラインの黄金》のドンナーを収録した同じ指揮者とは思えません、ショルティのイメージから聴き始めはマッシブでガチガチに硬派な演奏で、しなやかさに欠ける演奏と思いきや、単にオーケストラを煽るだけではなくて、あるいは自らの底にあるロマンティシズムが目覚めたからなのか、オーケストラ共々非常に共感に満ち、時にロマンティックなうねりすら聴かせるのですが、それが類い希なほどの説得力を持って聴き手に迫ってきます。


 冒頭からただならない気配が支配し、その空気が全曲を覆います。かる賞がショルティ/ロンドン響のマーラーの交響曲に携わったのはこれが最後のプロデュース作品です。