講談社版 ステレオ世界音楽全集2 モーツァルト | geezenstacの森

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講談社版 ステレオ世界音楽全集2

モーツァルト

 

LP1

○交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』

 指揮:ヨゼフ・クリップス

 演奏:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1957/04

○ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466

 ピアノ:ジュリアス・カッチェン

 指揮:カール・ミュンヒンガー

 演奏:シュトゥットガルト室内管弦楽団 1966/09/14-16

LP2

○アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525(セレナード第13番ト長調)

 指揮:ゲオルグ・ショルティ

 演奏:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

○フルート協奏曲第2番ニ長調 K.314

 フルート:アンドレ・ぺパン

 指揮:エルネスト・アンセルメ

 演奏:スイス・ロマンド管弦楽団

○ピアノ奏鳴曲第11番イ長調 K.331―第3楽章:トルコ行進曲

 ピアノ:ジュリアス・カッチェン

○ピアノ奏鳴曲第15番ハ長調 K.545―第1楽章:アレグロ

 ピアノ:ジュリアス・カッチェン

○歌劇『フィガロの結婚』K.492

 序曲/もう飛ぶまいぞ、この蝶々/恋とはどんなものかしら

 指揮:エーリヒ・クライバー

 演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 バス:チェーザレ・シエピ

 ソプラノ:シュザンヌ・ダンコ

○歌劇『ドン・ジョバンニ』K.527

 カタログの歌/ドン・ジョバンニのセレナード

 指揮:ヨゼフ・クリップス

 演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 バス:フェルナンド・コレナ

 バス:チェーザレ・シエビ

 

 

 講談社版 ステレオ世界音楽全集全18巻のうちの2卷目です。ここで取り上げられているのはモーツァルトになります。この講談社版は音楽史の歴史順になっています。ただ、時代でしょう、第1巻はヴイヴァルディ、バッハ、ヘンデル、ハイドンという内容になっています。全18巻ですが、ベートーヴェンだけは2巻構成になっています。そして、この1960年代ではブルックナーやマーラーは全く登場していません。ここでも、バックについているキングレコード(デッカ)の意向が働いているのでしょう、オペラ関係が充実していて、12巻ではヴェルディ、プッチーニはもちろんマスカーニ、レオンカヴァレロ、ポンキェルリ、さらにはヴォルフ・フェラーリも収録されています。また、16巻にはスペイン系の作曲家も多数収録されていて、ファリャを筆頭にアルベニス、グラナダ、ラヴェルやサラ・サーテもこの卷に纏められています。さらにすごいのは、最終巻にラプソディ・イン・ブルーでマントヴァーニ・オーケストラ、グローフェのグランド・キャニオンにスタンリー・ブラック/ロンドン・フェスティヴァル管弦楽団という演奏を持ってきて収録しています。ちょっとぶっ飛んでいますなぁ。

 

 さて、この卷で取り上げるのは2枚目のLPです。ここでは交響曲第41番とピアノ協奏曲第20番が収録されています。交響曲第41番はヨーゼフ・クリップスが指揮しているイスラエルフィルとの録音です。クリップスにこんな録音があるとは知りませんでしたし、今の人はクリップスなんて指揮者は知らないのではないでしょうか。小生でもわずかに1960年代にサンフランシスコ交響楽団と来日した時の記憶があるだけです。

 

 1902年ウィーン生まれ。74年没。ウィーン音楽院を卒業後、21年からワインガルトナーのアシスタントとしてウィーン・フォルクスオパーで研鑚を積み、ドルトムント市立歌劇場を経て、33年からウィーン歌劇場の指揮者に就任。ナチスに追われ一旦ウィーンを去るが、戦後復帰してウィーンの音楽復興に尽力する。その後米国に本拠を移し、63年からサンフランシスコ響の音楽監督として、ウィーン古典派音楽の精神を植え付けた。

 

 晩年にはコンセルトヘボウと後期交響曲を纏めて録音されたのがフィリップスから発売されて話題にはなったものの、評論家からは酷評されてさっぱり売れなかったという記憶があります。調べてみるとこのイスラエルフィルとの録音は1957年の4月にテルアビブで録音されたものです。

 

 で、この演奏ですが、大編成のはずなのに、室内管弦楽団みたいな響きがします。まるで、イスラエル室内管弦楽団の演奏のように聴こえます。弦楽器なんて、ほとんど1パート三、四人かぐらいで弾いているのではないかと思えてくるほどの薄さです。いえるのはこれが自慢のデッカのFFSSの録音かといういうぐらい音が貧弱です。昔からイスラエルフィルの弦はシルクのような音がすることで知られていましたが、この演奏に限ってはそんな印象は全くありません。ただ、マルチ録音の様で各セクションの音ははっきり聴こえます。演奏時間は全体で28分ほどです。これは第1楽章の提示部のリピートが実施されていないことに理由がありそうです。まあ、この当時は提示部のリピートがないのが普通でした。ベームのジュピターにしても同様です。そういう意味では一時代前の録音だということが分かります。

 

 第4楽章の最後の、メロディーがいくつも同時に登場してゴチャゴチャと複雑に絡み合う部分では、この響きの薄さが効果を発揮しています。音が出てくる時の頭のアタックは決して強くないのに、それぞれのメロディーが明確に聞き取れて、複雑に入り組んでいるはずなのに単なる立方体のフレームみたいに構造がよくわかります。音の頭が強調されていないのにそれだけクリアに聴こえるというのはちょっと驚きでした。

 

 

 もう一曲はカッチェン、ミュンヒンガー/シュトゥットガルト室内管弦楽団のモーツァルト/ピアノ協奏曲第20番です。カッチェンはあまりモーツァルトを録音していませんが、この20番だけはこれが2度めの録音で、1回目は1955年にペーター・マーク/ロンドン新交響楽団のバックで録音しています。

 

 このカッチェンはロシアの移民の子として、アメリカはニュージャージー州ロング・ブランチに生まれたピアニストです。祖父母がモスクワ音楽院で教鞭を執っていた音楽家だったので、その祖父母にみっちり仕込まれ、10歳でニューヨークでデビューを果たし、11歳でユージン・オーマンディの指揮するフィラデルフィア管弦楽団と共演してセンセーションを巻き起こしました。そんなカッチェンのデビュー時の演目が、ここに収録されているモーツァルトのピアノ協奏曲第20番です。しかし、天才少年ピアニストとしてのキャリアは積まず、ハヴァーフォード・カレッジに進学して哲学を専攻しています。その後、デヴィッド・サパートンに弟子入りしてピアニストとしての腕に磨きをかけたます。

 

 1948年にヨーロッパに演奏旅行に出かけてからパリで暮らすようになり、ヨーロッパを中心に演奏活動を展開しましたが、43歳にならないうちに肺癌で亡くなってしまいます。そんなことで残された録音は多くありません。この20番はデビュー曲でもあり、思い入れがあったんでしょうなぁ。決してモーツァルトを得意としていた訳ではないようで、セッションとして残されているのはこの20番と13番、25番ぐらいしかありません。

 

 

 ミュンヒンガーという指揮者はドイツ様式のがっちりとした音楽作りで知られていましたから、ここでも手兵のシュトットガルト室内管弦楽団をきっちりと様式美の中で纏めています。一方思い入れのあるこの曲をカッチェンはマークとの録音より幾分遅めのテンポで演奏しています。再録音にあたっては自分のテンポで満足のいく録音を残したいという意思の現れなんでしょう。それはある点では可能であったのですが、かっちりと枠にはまったミュンヒンガーのもとではやや無理があったような気がします。

ちょっとしたテンポの崩しやふくらみを見せているところも感じられますが、往々にしてインテンポの中に封じ込められています。特に第2楽章にそのような陰が見受けられ、そこがやや残念な演奏ではありますが、個人的には滋味のある演奏で、小生は気に入りました。もっと長生きしてほしかったピアニストです。