名画は嘘をつく | geezenstacの森

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名画は嘘をつく

 

著者 木村 泰司

発行 大和書房 ビジュアルだいわ文庫

 

 「夜警」「モナリザ」「最後の審判」「ラス・メニーナス」「叫び」など、西洋絵画に秘められた嘘を解き明かす斜め上からの芸術鑑賞!---データベース---

 

 

 巨匠たちが絵に込めた素敵な嘘を解き明かす斜め上からの芸術鑑賞本です。ただ、内容が盛りだくさんすぎて、細かいディテールが少々わかりにくいところが難点と言えば難点でしょうか。

 

 絵画というものは豪華一点主義の作品です。そこには作者の思いが詰まっているとみていいでしょう。ここでは、名画といわれる作品の制作された背景を解説しています。それはその作品の現在の評価とはまるで違うという現実を突きつけることになります。

 

 まあ、近代の作品は作者自らが命名するのは一般的ですが、宗教画と言われるルネサンス期の作品にはそもそもタイトルが存在していません。これらは後世の人々がその作品の印象からつけたとされるものがほとんどですが、それがそもそもの嘘の出発点となっているようです。

 

 ほとんどの名画には、その時代の政治、文化、思想が表現されています。絵の細部を見れば、どこかにそれが表されていますが、私達は見逃しがちです。またその時代背景を知らなければ、絵の中に思想が含まれていても、見逃してしまい、その意味もわからないでしょう。この本ではその視点から絵画を斜めに見て作品の本質に迫っています。そして、作品の持つ嘘の作面を10のジャンルに分けて、125点の作品を解説しています。

 

目次

第1章 タイトルの嘘―題名からは想像もできない絵の世界

第2章 モデルの嘘―モデルは真実を語らない

第3章 景観の嘘―名画家の頭の中の景色

第4章 王室の嘘―尽き果てぬ虚栄心と自尊心

第5章 設定の嘘―史実とは異なる「絵筆のアレンジ」

第6章 見栄の嘘―栄光の輝きは飾り物か

第7章 画家の嘘―巨匠にまつわる逸話は本当なのか

第8章 天界の嘘―試行錯誤を重ねた「神々の具現化」

第9章 見方の嘘―鑑賞者や批評家の思い違い

第10章 ジャンルの嘘―肖像画?風景画?静物画?

 

 第1章からして目からウロコです。レンブラントの「夜警」は正式なタイトルではなく、「フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊」なんですなぁ。さらにこれは夜を描いた作品ではなく、昼間の情景ということで、ニスの劣化による変色が画面を黒くしてしまったというのです。さらには、実際の作品はもっと大きく、展示を移設する際に両サイドと上部をカットしてしまっているという作品なんだそうです。また、全身が描かれているのはわずか3名だけで、その一人、黄色いドレスの少女の帯にぶら下がった鶏の爪は火縄銃手の象徴で、死んだ鶏は打ち倒された敵の象徴でもあり、黄色は勝利の色でもあるそうです。いやぁ、一枚の絵画からいろいろ読み取れるものです。

 

 

 さらに有名なムンクの「叫び」ですが、「叫び」はこの絵で描かれている人物が発しているのではなく、「自然を貫く果てしない叫び」に怖れおののいて耳を塞いでいる姿を描いたものであるそうです。紛らわしいタイトルですが、自然の叫びなんですなぁ。

 

 

 第3章の景観の嘘では、当時の風景画は実際の風景とは異なり、作者が想像した理想の景色を映し出したもので、決して写真のような現実を写し取ったものではないようです。

 

 

 有名なナポレオンのアルプス越えですが、よく知られているのは左の白馬にまたがるナポレオンです。しかし、このアルプス越えの峠は生易しいものではなく、とても馬で越えられるものではなかったようで、実際には「らば」で舞台となったグラン=サン=ベルナール峠を越えたようです。

 

 確かに肖像画の類は、皆お抱え絵師に描かせていますから、オーナー向けにかなり見栄えのいい作品を書いたのでしょう。絵画作品というものは、その時゛代的、政治的背景を無視して管弦楽団ショゥすることは本質を見誤るということなんでしょう。作品自体、既に作者のフィルターがかかっているというものですからねぇ。