カッサンドラの嘲笑―探偵藤森涼子の事件簿 | geezenstacの森

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カッサンドラの嘲笑

探偵藤森涼子の事件簿

 

著者/太田忠司

出版/実業之日本社 joyノベルス

 

 独立した藤森涼子の許へ、身許調査の依頼が舞い込む。六十五歳になる姉の婚約者の素行を調べてほしい、というのだ。依頼主は自ら「忠告を信じてもらえないカッサンドラだ」というのだが。依頼主の姉が目の前で飛び下り自殺してしまう衝撃の事態に...。表題作ほか、現代性にとむ題材をテーマにした連作ミステリー。涼子ら、奮闘する女探偵たちの姿が、クールで熱い。---データベース---

 

 

 このシリーズを読むきっかけになった「金木犀の徴」はこの巻の後日談です。ここではインターネット上で立ち上げた「藤森涼子探偵事務所」が順調に発展し、個性に富んだキャラクターの所員たちについてもきっちりと述べられています。これを読むまで、年齢不詳で変装の得意な老美女・李理亜さんなんて全く理解できていなかったんですから。

 

 本書には「カッサンドラの嘲笑」「ウンディーネの復讐」「バンシーの沈黙」の3篇が収録されています。ちょっと凝ったタイトルですが、「カッサンドラ」はギリシャ神話に出てくる悲劇の預言者、「ウンディーネ」は四精霊のうち水を司つ精霊、「バンシー」は家人の死を予告する北欧に伝わる妖精、らしいです。最後の「バンシー」は最初「話題の「バンクシー」と勘違いして読んでいましたが、これが跳んだおまけつきのストーリーになっていて、なんと「甘栗シリーズ」の甘栗晃くんが登場してくるのです。事件現場が中村区のお隣の中川区の尾頭橋ということもあるのでしょうが、久々に登場しています。同じ作家の作品で、同じ名古屋を舞台としていることでこういうことが実現するんですなぁ。この調子でいくと中村区は西区とも接していますから、「ミステリなふたり」シリーズの京堂夫妻の登場も夢ではないでしょう。

 

「カッサンドラの嘲笑」

 

 インターネット上に探偵事務所を立ち上げて独立した女探偵・藤森涼子の元へは色々な依頼が舞い込んでいるようです。一応HPを運営している美紀が依頼を取り次いで涼子に連絡をしているようですが、個人宅をベースにしているのでオペレーションやコミュニケーションにもワンクッションがあるようです。そんなことで、実際の事務所を立ち上げるべきかどうか悩むところからスタートします。

 

 そんな時持ち込まれた依頼は、65歳になる姉が婚約した相手の素行調査でした。ところが当の姉が涼子たちの目の前で飛び下り自殺してしまいます。依頼する意味がなくなったことで、千代うさは打ち切りとなってしまうのですが、いつものように涼子は事件の真相を追うことになります。すると、その自殺の背景を追ううちに意外な事実が隠れていることがわかってきます。ボランティア老人たちを巻き込む事件の背後には、時効の壁と金の問題が絡んでいました。この事件でロリータファッションの綾が思わぬ活躍をするのが見ものです。

 

「ウンディーネの復讐」

 

 個人情報漏洩がらみの殺人を扱ったこちらの作品では、涼子がフィットネス・クラブではなく、本格的なキックボクシングのジムに通って体を鍛えていることが明らかになります。結婚を諦め、会社組織にして事務所を運営していくにはタフな精神力がようキュゥされます。そのための気力・体力づくりでした。さして、ここでの調査依頼は派遣会社の誰かが個人情報を漏らしているとの情報で、美紀がその中に混じって調査をするという設定です。そして、容疑者と思われる人間を特定できたという段階になって、当の本人が殺されてしまいます。しかも、殺された女は美紀の携帯を持っていました。そして。例のごとく調査は打ち切りになります。依頼してきた会社は派遣会社ごと契約を打ち切り、別の会社と契約することにしたのです。

 

 これ以上金にならない仕事ですから、涼子は打ち切りを宣言しますが、美紀は納得できません。立場は変わっても事件を最後まで追う藤森涼子探偵事務所です。

 

「バンシーの沈黙」

 

 李理亜さん、今枝李理亜といったんですねぇ。そして、この話で、現実の事務所がオープンすることになります。場所はJR千種駅にほど近い古いビルの一室です。事務所はオープンしましたが依頼がありませんでした。さんな時舞い込んだのがこの事件の依頼でした。そうです、これは事務所開きの最初の依頼でした。死んだ父親の周りに登場した女子学生を探して欲しいという依頼です。

 

 事件の現場は中川区の松葉公園と荒子公園の真ん中あたりです。しかも、このあたりに李理亜さんが住んでいるというではありませんか。そして、調べるうちにこの辺り一帯の大地主が李理亜さんでした。どうりで話の中でよく海外旅行に行っているわけです。そして、この事件ではその李理亜さんが、容疑者の女子学生と接触するという役を買って出ます。

 

 ここでは孤独死する老人がテーマになっています。そして、老人と財産に係る問題がこの事件を引き起こしています。金にはならない事件でも涼子ら事務所の女探偵たちメンバーが、奮闘する姿が、クールで熱いのが魅力の一編でした。そして、甘栗くんもね。