アンナ・ビルスマを偲んで
コレッリ/ヴァイオリン・ソナタ「ラ・フォリア」
曲目/コレッリ
Violin Sonata In D Minor, Op. 5/7
1. Preludio 2:12
2. Corrente 2:55
3. Sarabanda 1:48
4. Giga 2:33
Violin Sonata In E Minor, Op. 5/8
1. Preludio 2:44
2. Allemanda 2:12
3. Sarabanda 1:54
4. Giga 2:14
Violin Sonata In A, Op. 5/9
1. Preludio 3:25
2. Giga 2:16
3. Adagio 0:29
4. Tempo Di Gavotta 2:44
Violin Sonata In F, Op. 5/10
1. Preludio 1:51
2. Allemanda 1:51
3. Sarabanda 2:07
4. Gavotta 0:40
5. Giga 2:33
Violin Sonata In E, Op. 5/11
1. Preludio 1:44
2. Allegro 2:40
3. Adagio, Vivace 2:20
4. Gavotta 0:43
Violin Sonata In D Minor, Op. 5/12, "La Follia" 9:30
リコーダー/フランス・ブリュッヘン
チェロ/アンナ・ビルスマ
チェンバロ/グスタフ・レオンハルト
録音:1979/10,80/03 オランダ、ハールレム、ルター派教会
P:ヴォルフ・エリクソン
SONY BMG 88697303862-25 原盤SEON
オランダのチェロ奏者、アンナー・ビルスマ氏が7月25日、アムステルダムで死去しました。85歳でした。もともとビルスマは、古楽の通奏低音を演奏していましたが、特別にバロック音楽のブリュッヘンやレオンハルトに共鳴したわけではなく、コンセルトヘボウ管弦楽団を退団した後、音楽的に逡巡したときに、ブリュッヘンに通奏低音を弾いてくれないかと頼まれ引き受けたと聞いたことがあります。でもバロック・チェロの名手であることに変わりなく、日本のバロック・チェロの鈴木秀美氏の師です。テルデックのダス・アルテ・ヴェルク、このセオン、そしてヴィヴァルテ等に大量に録音を残しています。
レコード時代のジャケット
60年代、70年代から活躍していて、リコーダーのブリュッヘン、通奏低音のチェンバロのグスタフ・レオンハルトとこのビルスマのバロック・チェロで昔はテレフンケンのLPが出ていて、バロック・チェロでの第一人者でした。
今回取り上げるのはアルカンジェロ・コレッリの作品です。この1枚は、コレッリの作品5の後半の6曲のヴァイオリン・ソナタをブリュッヘンの編曲による、リコーダー版でのセオン・レーベルでの「ラ・フォリア」のタイトルで発売されたものです。コレッリってこれまで、クリスマス協奏曲として知られていた合奏協奏曲くらいしか聴いたことがないようなじきで、これは新鮮でした。1653年にイタリアで生まれた作曲家ですね。弦楽器と通奏低音のための曲が多いそうです。48曲のトリオ・ソナタや、ヴァイオリンと通奏低音のための12曲のソナタ、12の合奏協奏曲が有名です。1700年にローマで出版された「ヴァイオリンと通奏低音ためののソナタ」作品5が最も有名な曲のひとつです。この作品5のソナタは、全部で12曲から構成されています。ほとんど4~5楽章からなっており急緩の繰り返しです。最後の12番は、かの有名な、一大ブームとなった『ラ・フォリア』ニ短調であります。これはイベリア半島が起源の舞曲ですね。
写真は、以前に購入した『Baroque Masterpieces -60CD Limited Edition』の中からの1枚です。12曲のうち7番から12番までが収められています。ブリュヘン、ビルスマとレオンハルトとくれば、これはもう一騎当千の強者による演奏であります。すでに3人共鬼籍に入っていますが、奇跡の共演といってもいいでしょう。
このCDに収められた曲は22曲。『ラ・フォリア』を除けば、2分前後の曲。短くて数が多く、楽器も同じでよく似た曲ということで、この手の曲はそれほど得意ではないのです。曲がなかなか頭に入ってこない。ということで、私はそれほど熱心にバロック音楽を聴くわけではないのです。しかし、今回はこのコレッリ、けっこう熱心に聴きました。
ブリュッヘンのブロックフレーテ、つまりリコーダーですが、これはさすがに名人芸ですね。ブリュッヘンというと晩年の18世紀オーケストラの指揮者のイメージの方が強いと思いますが、レコード時代から聴いているものにとっては「涙のパヴァーヌ」で一世を風靡したリコーダー奏者です。ビルスマとレオンハルトに比べても、まあ負けていません。録音の音量も違いがあるのかもしれませんが、音量、表現力、響きなどひけを全くとってませんね。音程はしっかりしていますし、表情も深いものがあります。もともとヴァイオリンのための曲ですが、リコーダーでこれくらいの音楽を聴かせてもらえるなら、もういうことはありません。特に、最後の「ラ・フォリア」はこの演奏の白眉でしょう。変奏が次々と展開されていく中で、三つの楽器のせめぎ合いが聴かれ、三つの楽器が次第に曲の盛り上がりとともに熱を帯びてくる様子は、この曲とその演奏の素晴らしさをよく現しています。この演奏で彼は自ら編曲した楽譜を用いて、リコーダーの演奏の極限まで挑戦しているのは、感服の至りであります。そして、ビルスマとレオンハルトも、ブリュッヘンに優るとも劣らない演奏。この三つの楽器のバランスも絶妙ですねえ。これは名盤です。天国でも3人揃ってこういう楽しげな演奏を繰り広げているのでしょうか。