青い宇宙の冒険 | geezenstacの森

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青い宇宙の冒険

著者 小松左京
出版社 KADOKAWA / 角川書店

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 夜の11時になると、まもるの家の下から怪しい震動音が聞こえてくる――。調査に乗り出したまもるは、古文書などから、この地域には何百年も前から60年ごとに不思議な現象がおきていたことを知る。怪現象の中心地に調査にむかうまもるたちの前に、古い子守歌どおりのねじれた松葉や強い磁性をおびたくぎがあらわれ、謎はますます深まっていく。冒険、友情、そしてほのかな恋を、宇宙と人類という壮大なスケールの中で描く、小学生でも楽しめるSFエンターテインメント大作。---データベース---

 この本は、1970年に書かれた作品で、ジュブナイル小説として「中一計画学習(筑摩書房)」1970年4月号 - 12月号に掲載されたもので、手元にあるのは1976年に角川書店から文庫として発売されたものです。主人公が中学生という事で、文章自体は大変分かりやすいものの文章量が大人向け小説と同等であることと、子供にはやや難解と思える科学用語が頻繁に使われていて、内容としては1970年当時の最新の情報が詰め込まれています。

 物語は、新興住宅地の地下からの怪音・振動と言う怪異現象から始まります。加えてその新興住宅地にまつわる七不思議が関連あるかのように紹介され、当時のオカルトーブームの香りを漂わせます。しかし、それを単にオカルトと済ましてしまうのではなく、過去の文献を探り、検証の必要性を説き、実地調査に臨むという過程に「科学」の視点があることが小松左京らしい。ここらあたりが同じSFでも豊田有恒氏や半村良氏とちょっと違うところなんでしょうなぁ。

 最後に作者による追記が書かれており、ヴェーゲナー(ここではウェゲナーと表記されています)の大陸移動説やアフリカ大陸の大地溝帯についての解説も書かれていますが、難しい言葉も調べながら読んでほしいという小松左京の子供たちへの教育的配慮があるようにおもえます。

 SF的にメインの仕掛けは多元宇宙的展開で、人間の思考というか6人の力を合わせた念力が宇宙の危機を救うという展開です。ただ、登場人物は日本人が主体ですが、ドイツの物理学者やアフリカのタンザニアのダトゥーガ族の黒人も登場します。スケールがグローバルなんですなぁ。1970年というとアメリカの宇宙開発はアポロ11号の月面着陸がある一方、ベトナム戦争は泥沼化しているという矛盾が渦巻くために意識的にアメリカは除外しています。

 表面的にはストーリーはジュブナイルの王道で、危機があってそれを、それなりに責任感のある大人たちと、少年少女が勇気を見せて乗り切るというスタイルですが、言葉についてはテレパシーでドイツ語、スワヒリ語の枠を超えた会話ができるという設定と、タイトルの青い宇宙ばダメで、赤い宇宙もダメでオレンジがいいというくだりは、何かしら資本主義も共産主義もダメで、その中間がいいと言っているような気がしてしまいます。小松氏の発想は要は地球は一つという考え方なんでしょうな。

 そうそう、この本の表紙画はただ一人登場する宇宙人です。ですが、ちょっとグロすぎて内容を的確に表現しているとは言い難いです。そんなことで、この表紙画はのちに差し替えになっています。

 この小説、唯一の欠点はジュブナイルにしては大人たちがタバコや葉巻をぷかぷか平気で吸うところでしょうかねぇ。