古澤巌のメンデルスゾーン
曲目/メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64
1. 第1楽章 アレグロ・モルト・アパッシオナート ホ短調 13:12
2. 第2楽章 アンダンテ ハ長調 8:13
3. 第3楽章 アレグレット・ノン・トロッポ ~ アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ ホ短調→ホ長調 6:36
ヴァイオリン/古澤 巌
指揮/芥川也寸志
演奏/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
録音/1970年代後半
P:横田武明
東京子供クラブ TJOC-8

先日入手したレコードです。いろいろ調べましたが、どうも素性が知れません。確かに「東京こどもクラブ」は存在した?ようで、ウィキにも記事がありますが、そこにはこの「ジュニア・オーケストラ・クラブ」のことは載っていません。ただオークションの項目で検索すると、このシリーズは何集か出ていることが分かります。このメンデルスゾーンの一枚は第8集となっていますが、その他の部分で分かった物は、
第1集 コッペリア
第3集 チャイコフスキー:幻想序曲 ロメオとジュリエット、プロコフィエフ:交響組曲 キージェ中尉
第4集 シューベルト:交響曲第8番 未完成、ベートーヴェン:序曲 エグモント、チャイコフスキー:スラブ行進曲
第11集 ハイドン:交響曲第94番 びっくり
第14集 ハイドン:交響曲第101番 時計、グルック:アウリスのイフゲニア序曲
などがリストアップされていて、第14集を除いて演奏は芥川也寸指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏となっていました。第14集のオーケストラは新星日本交響楽団。まあ、このレコードを出していた会社は「アカデミー出版」といって、現在では英語関係の出版物しか出していないようです。よく新聞広告で見かける「シドニー・シェルダン」の小説で有名な会社です。今では「東京こどもクラブ」自体が消滅していますから、こういうレコードも絶版です。
流通が通信販売の特殊ルートということでこういう演奏の録音があったことさえ、一般には知られていないのでしょう。それにしても、こういうところに芥川也寸志氏は積極的に通俗名曲を積極的に録音して、啓蒙活動をしていたことを改めて知りました。さて、ここで演奏しているオーケストラは東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団です。このオーケストラは1975年の設立ですから、録音は多分その前後だと思われます。芥川也寸志はこのオーケストラの芸術顧問をしていたのでその関係で、こういう録音を残したのではないでしょうか。そんなことで1970年代後半ではないかと推察します。ジャケットに録音技術/横田武明と表記されていますからこの人の制作による物と思われますが、それ以上のことは分かりませんでした。

さて、演奏です。演奏のタイミングはストップオォッチでの実測です。全体にゆっくり目のテンポでの演奏です。ここでの古澤巌の演奏は、聴かせる対象を明確にしているというか、どちらかというと芸術的表現というよりは、分かりやすい演奏に徹している様な弾き方で変にテンポを揺らすこと無く、子供たちにとって分かりやすい演奏を心がけている印象を感じます。古澤巌は「1979年に第48回日本音楽コンクール」で第1位入賞し「レウカディア賞」を受賞しています。多分、これをきっかけにこの録音がなされたのではないかと個人的には推察されます。余談ですが、このコンクール第40回では安永 徹氏が、第46回では千住 真理子さん(この時は古澤氏は入選)が受賞しています。
まあ、この段階ではオーケストラも独奏者もセミ・プロという段階なんでしょう。オーケストラのアンサンブルもイマイチです。テンポがゆっくりなのでその荒さが目立ってしまいます。ソロヴァイオリンは中央にややクローズアッブして定位しています。そんなことでフレージングのぎこちなさが克明に拾われてしまっています。冒頭のスラーも滑らかさに欠けるところがあります。まあ、なんといっても古澤氏は二十歳前後の録音ということになりますからね。多分初レコーディングぐらいではないでしょうか。それでも、聴き進んで行くに従って次第に演奏に乗ってくるようになります。やはり、冒頭は難しいもんなんでしょうなぁ。
展開部の終わりのカデンツァなんか気持ち良さそうに演奏しています。何しろ自分の技巧の披露場所ですからね。全体の流れの中ではこのカデンツァ部分からややテンポアップしていきます。調子が出て来たのでしょうか。どうも、ここからは古澤氏がリードしていっているようで音楽の流れがスムーズになって来ます。全体に音が固いのが残念ですが、フレッシュ感はあります。青春時代のいいモニュメントになっている様な気がします。
ファゴットの持続音で切れ目無く第2楽章に繋がっています。そういう意味では、緊張の糸が途切れること無く第2楽章が始まります。先ほど音が固いと書きましたが、これはホールがデッドなせいもあるのかもしれません。ロケーションは明記されていませんが、多分スタジオ録音ではないでしょうか。芥川氏の指揮は丁寧な音楽作りで、時としてインテンポになりすぎて若いオーケストラの欠点を披瀝してしまう様なところがありますが、全体としてはソロヴァイオリンをサポートするスタンスで音楽を纏めています。
レコードでは第3楽章はB面になります。これ1曲しか収録されていないという今では考えられない贅沢な仕様です。ここでは別テイクで録られていることが明らかで、オーケストラとヴァイオリンのバランスが変わってしまっています。ヴァイオリンがやや奥に引っ込んだ感じです。でも、実際のバランスはこの第3楽章の方が自然な様な気がします。しかし、肝心の演奏はややテンポに乗り損ねている風で、今ひとつ音楽が流れていません。そんなことで少々聴き終わって充足感が不足するのが残念です。ま、レコードで聴くとA面とB面を替える時に、緊張の糸が切れる部分もありますから聴き手の問題もあることはあるんですけどね。
そんなことで、もし、こういうソースが現在もどこかに眠っているなら、どこかのメーカーが復刻してほしい物です。レコード時代にはこういうソースが残っていてCD化がされていない物が多いのではないでしょうか。今の古澤巌ではこういう演奏は聴けないですからね。