ヴァイオリニストの音楽案内100
著作:高嶋ちさ子
発行:PHP研究所 PHP文庫

人気の女流ヴァイオリニストによる、初心者のためのクラシック音楽入門書。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからショパン、ブラームス、バーンスタインまで、著者自身が大好きな曲を中心に100曲を解説。古今の名曲をより深く、楽しく味わうためのツボを、アメリカのオーケストラに所属していた経験や、現在ソリストとして活躍する立場から、豆知識や裏話を交えつつ紹介する。音楽評論家からはけっして聞くことができない名言、迷言が満載! 名曲の意外な側面が明らかに。
『ヴァイオリニストの音楽案内』と『高嶋ちさ子の名曲案内』を合本し、改題。---データベース---
12人のヴァイオリニスト、めざましクラシックスなど、お茶の間で大人気の女流ヴァイオリニスト高嶋ちさ子による、初心者のためのクラシック音楽入門書です。従来は新書版で、『ヴァイオリニストの音楽案内』と『高嶋ちさ子の名曲案内』として発売されていたものが文庫版になって合体し、価格は半額以下となって登場したものです。
古今の名曲をより深く、楽しく味わうためのツボを」、演奏家の立場から、豆知識や裏話を交えつつ語られています。音楽評論家からは決して聞けない名言、迷言が満載!軽妙な文体で書かれた名曲案内は誰にでも読みやすく良くできています。しかし、これを単なる軽いクラシック入門書と侮ることなかれ。意外や意外、この中には核心を突いた濃い部分が隠れているのです。
ということで、この本は、クラシック初心者には手軽な名曲ガイドとして、ヴァイオリン通にとっては演奏家の意外な側面に触れることができるちょっと危険な本として幅広い層にお薦めできるものです。
1 シンフォニー(脅かす作曲家、ハイドンさん―ハイドン/交響曲第四五番『告別』、第九四番『驚愕』
くら~い短調で始まる交響曲―モーツァルト/交響曲第四〇番、第四一番『ジュピター』 ほか)
2 管弦楽曲(ご機嫌とりの舟遊び―ヘンデル/水上の音楽
コンマスかっこいいっす!―リムスキー=コルサコフ/交響組曲『シェエラザード』 ほか)
3 コンチェルト(弾いていたのはコギャルたち?―ヴィヴァルディ/協奏曲集『四季』
マイ・ファースト・モーツァルト―モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第三番、第五番『トルコ風』 ほか)
4 室内楽曲・器楽曲(ヴァイオリニストの聖書―J・S・バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
世界に通用する音楽家の音は?―モーツァルト/クラリネット五重奏曲 ほか)
5 オペラ・その他(クラシック界の女王たち―マリア・カラス/アンジェラ・ゲオルギュー/サラ・ブライトマン
イタリアオペラの巨人―ヴェルディ/歌劇『椿姫』 ほか)
作者は、桐朋を経て、アメリカのエール大学卒業後マイケル・ティルソン・トーマスが創設したアメリカの「ニュー・ワールド・シンフォニー・オーケストラ」に入団します。この本ではそれまでの体験が多くのエピソードで登場します。一例では、
それでは 少しその濃~い部分を披露いたしましょう。
(なぜ誰も弾かないの? ブルッフ/スコットランド幻想曲)
初めてこの曲を弾いたのは、高校生になったばかりのころ。わが師匠に「今度さ、僕この曲弾くんだよね」と楽譜をわたされ、なぜか「僕」でなく私が勉強することになりました。それは、当時の先生は年間180本ものコンサートをこなしていらしたからで、レパートリー以外の曲をさらう時間がとれず、生徒に弾かせて、それをレッスンしているうちに覚えよう、という画期的なアイディアだったのです。もちろん過去に演奏されたことはあったとしても、なんせ出番の少ない曲なので、記憶から引っ張り出してくるのには、生徒に弾かせるのはたしかにいい方法!しかし、モーツァルトじゃあるまいし、人が弾いているのを聴いただけで弾けちゃうというのは、やはり先生は天才だと思います。
(難しさも長さもピカイチ ブラームス/ヴァイオリン協奏曲)
ある日のレッスンのこと、先生がレッスン中になんだか他のことでお忙しそうで、何事かとお聞きすると、「今日急にブラームス弾くことになっちゃってさ」。N響の定期演奏公演でソリストが突然諸事情によりキャンセル!で、コンサートマスターである先生に急遽変更。いっておきますが、ブラームスのコンチェルトといえばチャイコフスキー、ベートーヴェンと並ぶ三大コンチェルトの一つ。-中略- そのなかでも、難しさも長さもピカイチなのがブラームス。
コンチェルトを弾くということは、百人を相手に戦うようなもの。普通どんなに一流のヴァイオリニストでも、それなりの準備と心構えがなければ引き受けないし、まして当日の朝!それはないだろ、と思うところ。でもそこが、わが師匠の普通でないところで、「大丈夫」と笑っているのです!!もうこっちのほうが恐ろしい。
こういうような形で名曲が紹介されていきます。コンチェルトに関しては、どうしてもヴァイオリンが中心になっていますが、ピアノ協奏曲ではベートーヴェンの第4番が絶賛されています。普通は第5番の「皇帝」ですから、こういうところが所謂名曲案内とちょいと違うところです。著書の好みも垣間見ることが出来る名曲案内、登場曲をBGM代わりに掛けティータイムでもしながら気軽に読める本です。