藍染袴お匙帖 1 「風光る」
著者 藤原緋沙子
出版 双葉社 双葉文庫

医学館の教授方であった父桂東湖の意思を継いで女医者となった千鶴は藍染橋の袂に治療院を構え、二百石取りの御家人の菊池求馬とともに江戸市中で起こる様々な難事件を見事に解決していく…。待望の新シリーズ第1弾!---データベース---
藤原緋沙子さんの小説は、先に「切り絵図屋清七」シリーズを読んでいますが、続編が中々出なかった事もあって(最近ようやく第5巻が発売されました)たまたま目についたこのシリーズを手に取りました。内容が江戸時代の女医さんというちょいとレアな設定で、多分「Jin-仁」の影響だと思うのですが、橘咲の活躍にだぶる面白そうな設定が興味を引きました。この「風光る」が第1作なのですが、どうも話の展開は、途中から読み始めたのと変わりない違和感が無い展開です。奉行所の面々が絡むという事では、見方を変えた捕物帳のような趣があります。章立てです。
目次
第一話 蜻火
第二話 花蝋燭
第三話 春落葉
第四話 走り雨
中々凝ったタイトルです。手に入れた本は初版が2005年の2月なのですが、2006年6月には第7刷が発行されています。中々の売れ線だったのですなぁ。遅まきながらの参戦です。
時代的には将軍は徳川家斉という言葉が出てきますから1800年前後でしょう。寛政の改革で松平定信が失脚し文化文政の庶民文化が花開く時代です。まあ、バックボーンとしては最高の時代でしょう。最近読んでいる時代小説は大体この時代のものが多いのも偶然でしょうかね。
最初の「蜻火」は「かげろひ」読みます。この話では、まるで沢口靖子が活躍する『科捜研の女』ばりの活躍で残された頭蓋骨から肉をつけて被害者を再現していくというストーリーになっています。焼けた店跡から発見された白骨死体は身元が分からないのですが、それらしき人物は浮かび上がります。ただ、江戸時代では写真も何もありませんから証明の方法がありません。そこで千鶴は聞き込んだ情報から肉付けを試みます。手助けで登場するのは千鶴の父に友人、酔楽とその弟子のような旗本の菊池求馬、そして頼りない南町奉行所の定中役浦島亀之助と岡っ引きの猫八です。事件は髑髏の男の徳蔵とそのおかみの関係が鍵となります。とっかかりとしてはやや突飛な事件ですが、登場人物の顔出しとしてはまあまあの筆運びです。
第二話は「花蝋燭」。恥ずかしながら花ろうそくの存在はこの話を読むまで知りませんでした。これはお涙頂戴物のストーリーになっています。
第三話は、鳥類を捕獲するのに使う「とりもち」と鳥刺しが絡むストーリーになっています。鳥刺しというとモーツァルトのオペラ「魔笛」で登場するパパゲーノしか思い浮かばないのですが、ここで登場する鳥刺しの宇吉は藩主の鷹狩りの餌としての鳥を捕るのがそのお役目という事で、鷹一羽につき毎日10羽の雀が必要だったようです。その雀を捕まえるのに使われるのが「とりもち」です。原料はこの小説では「トチノキ」の皮という事になっています。ただ、調べてもトチノキはトリモチの原料という事は出てきません。多分「モチノキ」の間違いではないでしょうかね。
第四話の「走り雨」は暗殺ものです。ですが、未遂に終わりその仕掛人が怪我をする事で千鶴が絡みます。教われるのは酔楽の友人でもある元大目付の下妻直久で、事件を巡ってはオールスター的な登場人物の活躍があり、なかでも旗本の菊池求馬が八面六臂の活躍です。当時の江戸の時の鐘の鳴り方が事件解決の鍵という事でも、中々勉強になります。