お断り 鎌倉河岸捕物控 29 | geezenstacの森

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お断り 鎌倉河岸捕物控 29

著者 佐伯泰英
発行 角川春貴事務所 ハルキ文庫

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 当代の豊島屋十右衛門の祝言が、江戸と京都で挙げられることになり、金座裏でも、「京行き」の話で持ち切りだ。そんな中、山城淀藩の家来が辻斬りに遭ったらしい、という話を八百亀が聞き込んできた。だが淀藩はそれをひた隠しにしていた。一方、扇木屋で万引き騒ぎが起き、中年の侍が取り調べられたが…。若手の弥一や政次、宗五郎ら金座裏の大奮闘に、北町奉行の名裁きが冴える。平成の大ベストセラーシリーズ、待望の第二十九弾。---データベース---

 前巻を取り上げたのが2016年の10月ですから、まるっと2年半のブランクがあります。今回取り上げたのは、同時進行で読んでいる山本一力氏の「損料屋喜八郎始末控え」と時代がだぶっており、同じ札差を扱ったストーリーという事で取り上げてみました。

 ただし、こちらは「お断り」で札差が潰れるという棄捐令とは性格が違う方法での展開という事で興味を持ちました。まあ、この「お断り」は大名が札差から借りた借金を棒引きすることで、札差にとっては死活問題です。今回の辻斬りはこのことに端を発しています。棄捐令の小型版といってもいいのですが、これをやったら大名家の名誉にも関わりますし、今後借金が出来なくなるというリスクもあるのでそうそうは出来なかったと思われます。それが証拠に、大掛かりな「棄捐令」の後は経済が萎縮し、貸し渋りが怒り、帰って武士が困窮しています。

 まあ、結果としては後ろで糸を引く黒幕がいたという事で事件の方は収まるのですが、札差が自殺に追い込まれる事態になった事が発生して、それに関わる辻斬りが横行し、ここに金座裏が関わるという筋立てになっています。

 ところで、前巻の「吉原詣で」の最後で、鎌倉河岸の酒問屋豊島屋の十右衛門が京の機屋の娘を嫁に迎えることが明らかになっています。そこで、この巻では江戸と京の両方で祝言をあげることになり、その準備が呉服屋松坂屋隠居の松六を中心に始められることになります。そんなことで、金座裏も宗五郎夫婦が京に出向く事になります。

 そんな折り、手先の頭の八百亀が“辻斬り”の話を聞き込んできます。斬られたのは山城淀藩の藩士で、金座裏でさえも立ち入れない大名家です。翌朝、殺害された藩の要人が金座裏を訪れ辻斬りの見逃しを願うが、金座裏の九代目宗五郎が心配した通り、この一見では終わらず、別の大名家を狙った辻斬りが起きてしまいます。こんなことで、金座裏の面々がこの辻斬りの犯人探しに乗り出す事になります。

 これとは別に、南茅場町の大番屋では、印籠や根付を扱う老舗の扇木屋と中年の武士が睨み合っているところに十代目政次たちが出くわします。武士は高価な印籠を盗んだ疑いをかけられていたが、政次は武士が女子が組んで万引きを行う常習者を睨み、ひとまず武士を番屋から出して手先の弥一に武士を尾行させ事件の解決に動き出します。この巻では武家が絡んだ辻斬りとこの万引きの2つの事件を金座裏が追っていくことになります。

 ただし、どちらの事件も話の組み立ては単純で、「損料屋喜八郎始末控え」ほどのストーリーに深みはありません。ここら辺りが直木賞作家と時代小説作家の違いなんでしょうなぁ。