バーナード・ロバーツのピアノ・ソナタ
曲目/ベートーヴェン
ソナタ 第13番 変ホ長調 Op.27 No.1
1. アンダンテ 5:33
2. アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェ 1:56
3. アダージョ・コン・エスプレシオーネ-アレグロ・ヴィヴァーチェ 2:56
4. アレグロ・ヴィヴァーチェ 5:52
ソナタ 第14番 「月光」嬰ハ短調 Op.27-2
5. アンダンテ・ソステナート 6:50
6. アレグレット 2:22
7. プレスト・アジタート 7:39
ソナタ 第15番 ニ長調「田園」 Op.28
8. アレグロ 10:29
9. アンダンテ 6:30
10. スケルツォ:アレグロ・ヴィヴァーチェ 2:26
11. ロンド:アレグロ・マ・ノン・トロッポ 5:08
ピアノ/バーナード・ロバーツ
録音/1982-85 ウォストーン・レイズ、イギリス
NIMBUS NIM 1774

多分日本では殆ど知られていないピアニストではないでしょうか。ニンバスというレーベルは、日本では一応コロムビアが発売窓口になってはいたのですが、本家本元が倒産してしまい、いつの間にか消えていました。
本国、イギリスではこのバーナード・ロバーツのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は1997年に発売されていますが、国内では発売されることはありませんでした。知られていないのはそういうこともあるのでしょうか。ただ、以前はベルナルト・ロバーツとして紹介されていました。綴りがBernard Robertsですからどうとも読めます。ハイティンクと同じ綴りですから、ベルナルトでも正解ですからね。
バーナード・ロバーツはイギリス、マンチェスター生まれのピアニストで2013年に亡くなっています。ニンバスには多くのレコーディングを残していますが、このベートーヴェンのピアノソナタ全集は彼の代表作でしょう。他にはバッハや室内楽のトリオの録音等も残しています。

このフルバムは11枚組で、現在でもタワレコが取り扱っているようですが、ニンバスは潰れているのでCD-Rの形で発売されているようです。取り上げた一枚は4枚目に収録されていて、13-15番のソナタが収録されていますが、実は12番の最終楽章も頭に入っているという全集ならではの構成になっています。この全集は何故か当時は非常に安い値段で売られていた記憶があります。多分値段だけで飛びついて買った人も多いのでではないでしようか。
さて、13番は1800-1801年の作ですね。作品27の2つのソナタはベートーヴェン自身によって「幻想曲風ソナタ」と名付けられています。一般には14番の方が「月光」のニックネームが付いていますからそちらの方ばかりが有名ですが、実際にはセットで聴いた方が作品の性格が良くわかるでしょう。ソナタ形式の楽章が無く、4つの楽章を続けて演奏する独特の構成になっています。一般には3,4楽章は一つと見なしている演奏が多いです。ここでは一応トラックが打ってあります。実際手持ちのグルダの演奏は3,4楽章が一括りで演奏されています。
ベルナルト・ロバーツの演奏は、端正ですがこれと言った特徴はありません。実際、BGM的に聴くことが多いCDです。ニンバスの録音は残響音をたっぷりと取り入れた割と明るい目の音色です。CDになって最初に買ったグルダの演奏と比べると大人しい印象ですが、曲の性格を掴んでいるという点では聴くにはうってつけの演奏です。
ところが、第14番になるとグルダの演奏はちょっと重たく、俄然ロバーツの演奏が輝いて聴こえるのです。湖上を照らす月の光のイメージはロバーツの演奏の方がとてもしっくりと来ます。なるほど、「幻想曲風ソナタ」というのはこういうイメージなのかということが良く分かったりします。「月光」という通称はベートーヴェンがつけたものではなく、ドイツの著述家L.レルシュタープがこのソナタの第1楽章について“湖の月光にきらめく波間にただよう小舟のようだ”と言ったことからつけられたのですが、まさにそのイメージがピッタリなんですなぁ。
そんなことで、このロバーツの演奏は今でも手放さないでいる訳です。
ロバーツは決してコンクールで輝かしい成績を残したピアニストではないという所も派手さとは無縁なんでしょう。日本では何かと賞歴が箔みたいな所があり、それ以外では評価されない所がありますが、きちんと自分の耳で聴いて評価したいものです。
3曲目の「田園」も1801年に作曲された作品です。そして「田園」という通称はベートーヴェンがつけたものではなく、ハンブルクの出版社がこのソナタを出版する際つけたものです。第1楽章の冒頭のティンパニを燃した音形はソフトタッチですが、その後の主題は対照的に鋭いアタックでメリハリをつけて展開しています。続けて聴いてくると差のアタックの違いにびっくりさせられます。
第2楽章は弦楽器のピチカートを模倣したような伴奏形が特徴のアンダンテです。ダイナミックな演奏ですが、低域がやや不足した録音バランスはも聴き続けるとやや疲れてしまいます。どちらかというとテンポ設定は曲によりかなりせかせかとした所もあり、この曲では第4楽章当たりは一気呵成に曲を進めていく所はもう少しテンポルバートをかけてもいいのかなぁとおもいます。
曲により、出来不出来はありますが、全体としては聴く価値はある演奏のように思います。YouTubeには新生ニンバスのチャンネルがあり、このロバーツの演奏で「ワルトシュタイン」の演奏がアップされていました。