日暮し同心始末帖 5 逃れ道 | geezenstacの森

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日暮し同心始末帖 逃れ道

著者/辻堂魁

発行/学研 学研M文庫

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 神田堀端で廻船問屋の番頭が殺された。旗本の三男から北町の平同心の家に婿入りし、お役を継いだ日暮龍平に取調べが命ぜられ、探索を進める龍平は、ある女に出逢う。それは浅草で地廻りに絡まれた倅・俊太郎を救け、錦絵でも評判のお篠だった。そんな折、龍平の元にお篠の昔を密告する者が現れた。忌まわしい過去から逃れる女と、口封じにその命を狙う無法者の一団。お篠の正体に気づいた日暮は、その裏に隠れ潜む真の悪に剣先を向ける。---データベース---


 手持ちの本は学研M文庫として2012年に発売されたものです。現在は祥伝社から発売されていて、この一環は今年の2月に発売されています。北町奉行所の平同心・日暮龍平が活躍する捕物時代小説シリーズ「日暮し同心始末帖」の第5作目にあたります。なぜここから読み出したのかというと、これまでの4巻はその名の通りの平同士んで正式な役にはつかず、雑用ばかりを押し付けられる立場であったからです。この巻からは定廻同心の南村種義の病欠の代理として、本格的に同心として活躍するからです。読んでいて面白いのは、
江戸の町や風物がしっかりと描かれていること。切絵図を片手に主人公の移動した後をたどることができることです。

 まあ、今で言う代用教員の様な立場ですが、正式に辞令を貰い言上帳により引き継ぎを行ないます。この言上帳は廻り方には殊にかかわりが深く、盗難、変死、殺し、喧嘩、強請恐喝、掏摸など、一日に起こった諸々の刑事に関する一件を記載した帳面で、奉行は言上帳の報告によって、江戸市中の治安状況を把握しています。

目次
序 炙り団子
第1話 八丁堀
第2話 美人画
第3話 嵐
第4話 馬入川

 で、序章で北町奉行所平同心・日暮龍平の六歳になる息子・俊太郎は遊び仲間たち4人と、小さな冒険気分で不忍池の弁財天の茶店を訪れます。そこで、店を我が物顔にする地廻りのチンピラの健五らに絡まれて暴力を振るわれます。その危難を町絵師の若女房のお篠に助けられます。瞬時に相手を麻痺させたかのような不思議な技を使ったというその時の様子を息子から聞き、興味を持った龍平はお礼方々お篠のもとを訪れます。お篠は涌井意春という今人気の絵師の女房だったのです。お篠は、意春の錦絵のモデルになるほどの美人で、評判になっていました。

 一方、龍平は、脚気のために療養で、勤めができなくなった南村種義の代わりに、定町廻りを拝命します。そして、つい最近起こった南村が抱えていた未解決の、利倉屋の平番頭雁之助殺害事件も扱うことになります。南村配下には蔵六という手下もいるのですが、どうも評判は今ひとつで周りにはごろつきがたむろしています。そして、くだんの事件もただの通りすがりの追いはぎの仕業と決めつけています。

 しかし、龍平の手下の宮三が調べると蔵六の仲間が殺された雁之助の持ち物の根付けを故物屋に売り払っていたのを突き詰め引っ捉えます。そこから事件の糸口が開かれ、利倉屋の平番頭雁之助の素性が次第に分ってきます。そして、その影にお篠が浮かんでくるのです。

 お篠はただの美人妻ではありませんでした。その過去に雁之助、さらには里の厚木の陣屋が絡んだ利権争いが根にありました。中々面白いストーリーで、風野真知雄の「妻はくノ一」的なアクションシーンが描かれます。

 辻堂氏の作品では、過去のある男女を中心に据えて、その過去に由来する事件の謎を解くというパターンがありますが、この巻はそれの典型といってもいいでしょう。ただ、本来は武士の涌井意春が嵐の夜にあっさりと殺されるのはちょいと残念です。

 シリーズは全7巻ありますので今度は過去にさかのぼって、タイトル通りの日暮の同心を読みたいと思います。