モーツァルト ホルン協奏曲/ターフェル・ムジーク
曲目/モーツァルト
1.ホルンと管弦楽のためのロンド 変ホ長調 K.371 (1781) Allegroレヴィン版* 6:39
ホルン協奏曲 No.2 変ホ長調 K.417 (1783)
1. Allegro 6:31
2. (Andante) 3:16
3. Rondo. Allegro 4:05
モーツァルト ホルン協奏曲 No.3 変ホ長調 K.447 (1783)
1. Allegro (Cadenza: Ab Koster) 7:50
2. Romance. Larghetto 4:39
3. Allegro 4:02
モーツァルト ホルン協奏曲 No.4 変ホ長調 K.495 (1786)
1. Allegro moderato (Cadenza: Ab Koster) 8:24
2. Romance. Andante cantabile 5:00
3. Rondo. Allegro vivace 4:09
モーツァルト ホルン協奏曲 No.1 ニ長調 K.412 (1782) レヴィン版*
1. Allegro 5:14
2. Rondo. Allegro 3:44
ホルン/アブ・コスター
指揮/ブルーノ・ヴァイル
演奏/ターフェルムジーク・バロックO
P:ウォルフ・エリクソン
E:ペーター・リンガー、マークス・ヘイランド
録音:1992/09/11-13 ドープスヘジンデ教会、ハールレム、オランダ
1993/05/02,03* グレン・グールド・スタジオ、トロント
ヴィヴァルテ 8875030622-38

ソニーのヴィヴァルテシリーズの一枚です。手元に有るのはターフェルムジーク管弦楽団のボックスセットに含まれた一枚です。廉価盤のボックスセットですから解説は一切ありませんしが、録音データだけはバカ丁寧にブックレットとジャケット裏に記載されています。で、この録音が2期に別れて録音されていることが分ります。どちらがいいかと言うと音像がくっきりしているのはスタジオ収録された1993年の録音で、1992年の録音はホールトーンを生かした全体を包み込む様な響きで、如何にもコンサートで聴いている気分に浸れます。ホルンとのバランスも教会録音の方がいいように感じます。不思議なものでナチュラルホルンでの演奏ですが、スタジオ録音の方はやや音色に潤いが欠けています。
このCDはホルン協奏曲集と謳っていながら冒頭にロンド変ホ長調 K.371が収録されています。
この曲はAllegro、4分の2拍子による単一のロンドの楽章で、1781年に作曲されています。未完の曲ですが、独奏部分は完成しており、伴奏部分のスコア(オーボエ2、弦楽合奏)には未完成部分が多いのですが、それらを補筆して演奏される機会がしばしばあり、ここではロバート・レヴィン盤で演奏されています。ちなみに、下に記載したホールステッドの演奏ではジョン・ハンフリーズ版で演奏されています。この曲、1989年に長い間紛失していた中間部の60小節の自筆譜が発見され、この曲の本来の姿がようやく判明しました。それ以前は、この部分を欠落させたまま補筆・録音されていました。ここでは、コスターの使用楽器はフランス系ではなく、リンツに工房を構えたイグナツ・ローレンツ(Ignaz Lorenz)製作のオリジナル(1820年頃)使用して演奏しているようです。渋い音色になっています。
さて、もう一曲レヴィン版で演奏されているのが最後の第1番です。この第2楽章は、最近では2016年に終了した「いきなり!黄金伝説」のBGMで使われていたので耳にしている人が多いのではないでしょうか。ところで、このモーツァルト幾多ある楽曲中このホルン協奏曲はレコード時代の1970年代までの演奏と現在とでは随分と様変わりしています。1980年を前後して、自筆譜の再発見や影印版刊行が続き、87年には「新モーツァルト全集」の当該巻(V/14/5:第5篇第14作品群第5巻)がフランツ・ギークリング校訂により刊行され、同年ザルツブルクにて大規模なシンポジウムも開催されていますし、90年初頭にはロンドK.371の提示部が発見されるなど、研究者のみならず、ホルン奏者にとっても安穏としていられない状況が出現したのです。これにより、「旧全集」において作曲順に第1番から第4番まで振られた番号は、まったく見当外れであって、本来は
第2番 → 第4番 → 第3番 → 第1番
の成立順であることが明らかとなりました。さらに第1番は、従来のケッヘルらによる1782年作曲との定説が、アラン・タイソンによる用紙研究、ヴォルフガング・プラートによる筆跡研究によって異論が唱えられ、モーツァルト最晩年の作曲、それもおそらく緩徐楽章となったであろう中間楽章がなく、終楽章が未完に終わった理由こそが、実は作曲者自身の夭逝にあり、かのクラリネット協奏曲K.622の後ろに位置するという、絶筆の「レクイエム」同様の所産であったことが決定的になったのです。
そんなことで、最近の録音は本来のモーツァルトの残した譜面で演奏されているものが殆どです。ただ、実際のコンサートでは今でも旧来のジェスマイヤーの編曲版が使われていることが多いようです。新旧を較べてみるとその違いは歴然です。
旧来の演奏です。バボラク/小澤/水戸室内管弦楽団
新しいものです。ホルステッド/ホグウッド
個人的に馴染みがあるのはやはり旧来の演奏です。ここで聴かれるアブ・コスターのホルンはヴァイルのテンポに引きずられているというか、どこかちょっと洗練されていない響きで、ナチュラル・ホルンというとどうしてもヘルマン・バウマンのイメージが強いのであの響きを追い求めてしまいます。ナチュラルホルンでの演奏で、最近聴いた中ではホールステッド/グッドマン/ハノーヴァーバンドの演奏が一番楽しいものでした。1990年代に幾つも録音されたモーツァルトのホルン協奏曲集の中では、あまりぱっとしない一枚だった様な気がします。
モーツァルトのホルン協奏曲は好きな作品なので今までも下記のアルバムを取り上げています。
・デニス・ブレインのモーツァルト/ホルン協奏曲
・ロン・グッドマン/ユーリッセンのモーツァルト/ホルン協奏曲
・クレヴェンジャー/モーツァルト:ホルン協奏曲全集
・ホールステッドのモーツァルト/ホルン協奏曲
・エルネスト・ミュール・バッハーのモーツァルト/ホルン協奏曲