浮世絵展「広重 二つの近江八景」 | geezenstacの森

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浮世絵展「広重 二つの近江八景」

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 中国湖南省にあり当時中国最大の淡水湖であった洞庭湖(どうていこ)付近の名勝の瀟湘八景(しょうしょうはっけい)にならい、近江の琵琶湖畔の名勝8か所を選んだものが近江八景(おうみはっけい)です。この企画は2013年の後期にも企画されています。
各景のタイトルは、

石山秋月 [いしやま の しゅうげつ] - (石山寺の秋の月夜)
勢多(瀬田)夕照 [せた の せきしょう] - (瀬田の唐橋(からはし)の夕暮れ)
粟津晴嵐 [あわづ の せいらん] - (粟津が原の松並木の晴天)
矢橋帰帆 [やばせ の きはん] - (矢橋の船着場と帆船)
三井晩鐘 [みい の ばんしょう] -(三井寺(みいでら)の鐘堂の夕暮れ)
唐崎夜雨 [からさき の やう] - (唐崎神社の松の夜雨)
堅田落雁 [かたた の らくがん] - (堅田の浮御堂(うきみどう)を背景に飛ぶ雁(かり)の群れ)
比良暮雪 [ひら の ぼせつ] - (比良山の雪景)

 広重は生涯で20種類ほど近江八景を描いていますが、今回はそのうち二つの近江八景シリーズを取り上げています。共に各景は同じタイトルで、近衛信尹(このえのぶただ)の作と伝わる和歌を配する横物と竪物(たてもの)のシリーズです。

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 最初は天保5 年(1834)、名作「保永堂版東海道五拾三次」が完結した直後に刊行された最初の近江八景で、近江八景の代表作です。永久堂と保永堂の合版で横型の大判錦絵です。「保永堂版東海道五拾三次」画帖(がじょう)の奥付の予告に「近江八景墨画うすさゐ(い)しき続画」とあるように、水墨画調の淡い彩色で自然の風景を前面に押し出し、摺りのボカシ技法が利いた格調高い佳作群で、和歌は方形の枠内に記されています。その八景を上の順番に並べてみます。この近江八景調べてみると東海道、中山道に近い琵琶湖の南の方に集中しているのも、興味深い所です。

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 もう一方は、魚屋栄吉版の竪大判錦絵で、安政4(1857)年、広重61才、最後の近江八景です。各図の上部に雲形で装飾的に仕切られた枠の中に金の砂子や切箔に似せた装飾を背景に和歌が記されています。縦長の画面にモチーフが巧みに積み上げられた穏やかな画面で統一されています。こちらは、かなり珍しいもので江戸名所百景などと同じ縦の構図の中に和歌を配した味わい深い作品になっています。

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 今回はさらに、尾張の絵師 森 玉僊(1791~1864)が文政7年(1824)から天保12年(1841)にかけて描いたとされる22枚からなる浮世絵集の「名古屋名所団扇絵けが展示されているのが珍しいです。玉僊は別号を高雅(たかまさ)といいます。吉川一渓(よしかわいっけい)に就いて狩野派の画法を学び、ついで中林竹洞(なかばやしちくどう)の門に入って南画を学びました。また浮世絵は牧墨僊(まきぼくせん)に就いて学んでいます。

 この絵集の特徴は、そこを訪れて風景を楽しむ人々の風俗、生態、服装の美などを面白く描き込んでいることでしょう。彼が団扇絵(うちわえ)を描いたのは、小さな版画に絵をまとめる技量と、題材配置の趣向に自信があったためでしょう。

 この展示は10月1日まで開催されています。