浅草古翁堂 隠れひさぎ | geezenstacの森

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浅草古翁堂 隠れひさぎ

著者 片岡麻紗子
発行 廣済堂 廣済堂文庫

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 「見つからないものを探しだす」と評判を呼ぶ浅草の古物屋古翁堂の主人、伊平は昔、盗賊の頭だった。盗むのは金ではなく、道楽で集め、ろくに賞玩されていない骨董だった。そのやり方が手ぬるいと手下の「浮闇の弐助」に裏切られたのがきっかけで、足を洗うことにした。しかし金品を盗み、人殺しも厭わぬ弐助を許せなかった。そして京から逃れてきた元盗っ人、仙次郎と組み、弐助の盗んだものを盗み、元の持ち主に返す「盗み返し」の裏商いを始め、三年が過ぎた。そんな二人の前に書物を探す謎の浪人、北浦文吾があらわれて…。--データベース---

 久々に面白い時代小説に出会いました。こちらが期待していない分、面白さは倍増します。浅草の古物屋、古翁堂の主人伊平は昔、東海道を荒し回った盗賊の頭目でした。一家言あり、盗むのは金ではなく、道楽で集め、ろくに賞玩されていない蔵に眠っている様な骨董で、人を傷つけず、をモットーにしていたのですが、手下の弐助に裏切られ足を負傷し、堅気になった経緯があります。古翁堂の商売は順調なのですが、今では「浮闇の弐助」と名乗るような人を殺める事を厭わない盗っ人をのさばらせておくのが許せず、弐助が盗んだものを元の持ち主に返す「盗み返し」を裏の商売としています。そんな伊平の前に訳あって京から江戸へ逃げてきた仙次郎が現れ、同じ穴のむじなの臭いを嗅ぎ取り助けます。今では伊平の店を切り盛りしながら、裏稼業を手伝っています。

 浪人として、この二人に関わる北浦文吾という謎の剣豪も面白い設定です。この男、読み進むに従ってさる藩の御庭番をしていた事が明らかになりますが、ことほどの剣の達人です。曰くありげな「孝経」という書を求めて江戸中の古書店を探しまわっています。まあ、この「孝経」についてはこの小説を読むまでまったく知りませんでしたが、世界大百科事典には次のように記されています。

{{{孔子の弟子の曾子の作といい伝えられる儒家の古典のひとつ。《論語》とならんで五経につぐ地位があたえられた。孔子と曾子の対話の形式にかりて,天子から庶人にいたるまでの各階層それぞれの〈孝〉のありかたが説かれ,また〈孝〉の徳が〈天の経,地の義,民の行〉と天地人の三才をつらぬく原理として形而上化されている。〈孝〉は儒教倫理の中心であり,かつ《孝経》は短編でしかも《詩経》の引用を多くふくんでいて暗誦にたやすかったから,知識人家庭では《論語》とともに《孝経》を幼童の教育に用いた。}}}

 要するに武家では子供の教育の基礎となる書物といった所で、そういう意味では広く流通していたものだという事が分ります。北浦の探す「孝経」には密書が仕込まれているのです。

さて、本書の章立ては次のように成っています。

第1章 昨日の敵
第2章 貧者の理
第3章 形見泥棒
第4話 仇

 女性が書く小説という事で、ハードボイルドではなくそこには適度に男と女の恋愛模様も描き込まれていて程良い按配の展開に成っています。古翁堂にはおもよという伊平の孫がいて、何かとこの北浦を意識しています。しかし、伊平は仙次郎とおもよを一緒にさせたいと言う思惑があります。今後どういう展開になっていくのでしょうね。

 一話づつは読切りに成っていますが、全体としては繋がっています。結局は故物にまつわる裏の話ですが、そこに守銭奴が絡んだり骨董趣味の大名が絡んだりと話題には事欠きませんが、第3話では故物と言ってもぼろも同然の母の形見の着物が登場して涙を誘います。

 現在までに第3巻まで発表されている様なので続きが期待出来ます。