喧嘩屋藤八 鬼蜘蛛
著者/庄司圭太
発行/光文社時代小説文庫

「失せ物ひと探し悩み事万お引き受け仕り候喧嘩屋」―浅草は雷門の近くで看板を掲げる藤八を商家の主人が訪ねてきた。湯島天神へのお参りの帰りに拐かされた娘を無事取り戻してくれという依頼だ。「鬼蜘蛛」を名乗る犯人からは身代金二百両を要求する脅迫文も届いていた。若い娘たちを狙って連続する事件に、藤八がへっつい長屋の住人と共に立ち向かう。文庫書下ろし長編時代小説。---データベース---
江戸時代の何でも屋という所でしょうか。それでも相談事は私立探偵みたいなものが舞い込んできます。今の代には耐えてしまった下町の人情の様なものが感じられる小説です。藤八の住むへっつい長屋は本来は「斉太郎店」といいますが、藤八は孤児で長屋の住人の中で育てられた男です。まあ、江戸時代というのは長屋は薄い壁一つで、隣近所の声は駄々漏れですし、性風俗についてもかなりオープンな所がありました。で、藤八は要するに長屋の男たちの誰の種か分らないということなんです。そんなことで、長屋のみんなで育てられたという経緯があります。
店は雷門の前にありますが、この長屋は雷門から五町ほど離れた駒形堂の裏手にあります。一応、観相師の太田南天との共同経営という事になっていますが、年の上に心臓の病気持ちという事で店は藤八が切り盛りしているというところです。時は嘉永元年といいますから1848年、もはや幕末といってもいいでしょう。その年の川開きのころが舞台という事で5月という事になります。
そんな店へ太物問屋の「門倉屋」の主人が勾引しにあった娘を捜してくれと頼み込んできます。大きな仕事が舞い込んだと藤八は長屋の人間たちの強力のもとに探索をはじめます。そう、褒美は川開きの肴の初鰹ということで、皆が協力する事になるのです。
ところがこの事件以外な咆哮に発展します。こり勾引し以前にもあちこちで若い女が攫われ、殺されています。その殺され方が猟奇的なもので耳が削ぎ落とされているのです。この事件も早く解決しないと二の舞になるおそれがあります。藤八たちは必至に捜索を続け、深川の木場の廃屋に軟禁されているという情報をつかみます。で、この事件は落着するのですが、娘は手込めにされ傷物で戻ってきたという事で当ての褒美は貰えません。何とも情けない結末なのですが、これで事件が解決したわけではありません。
「鬼蜘蛛」と名乗る一味は別に居たのです。門倉屋の事件は手口を真似た別のチンピラどもが起こしたもので、その後も若い女の勾引し、殺害事件が続きます。そんな事件の一つ「大和屋」のお初が殺された事件も藤八が扱う事になります。これも女の耳の骨がえぐり取られていました。その骨を取戻して欲しいと言う頼みを引き受け、奉行所の同心から情報を得ながら八面六臂の活躍でこちらも事件を解決します。そして無事宴会を開く事が出来ます。しかし、結末は悪銭身に付かずてきなエンディングで、一味の女に長屋に火を放たれ損害金が出てしまいます。結局チャラという事で大山鳴動して鼠一匹という結末です。
ストーリーはもともと放送作家で、その昔「忍者部隊月光」の脚本を書いていた人という事で面白いのですが、長い割りに読後感があまりないという結果になってしまいました。調べると2作目、3作目もあるようですが手に取ろうかどうか迷っています。