時代劇の見方・楽しみ方-時代考証とリアリズム | geezenstacの森

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時代劇の見方・楽しみ方-時代考証とリアリズム

著者 大石 学
発行 吉川弘文館

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 勧善懲悪のヒーローものから、庶民の日常や情感を描くチャンバラ抜きの「現代劇」へ―。今やドラマの迫真性が求められる時代劇に、歴史学が果たすべき役割とは何か。大岡忠相の虚像と実像や、江戸庶民の生活、天璋院篤姫と大奥、坂本龍馬や新選組の実相などを、ドラマ制作のエピソードを交えながら描き出し、時代劇と時代考証の関係を説き明かす。---データベース---

 かつて、時代劇の制作にあたっては、稲垣史生や林美一といった「時代考証家」といわれる人々が、その描写が史実と矛盾しないか、検証する役割を負っていました。しかし、そういう時代考証を経ない作品も多く、江戸時代というと画一的な士農工商とか、ひれ伏す大名行列とかが描かれてきました。また時代劇というと「水戸黄門」のように勧善懲悪ものが主流でしたが、いつまでもそんなリアリティの無い作品がもてはやされるわけでもなく、いつの間にか時代劇はテレビのレギュラー枠からは消えてなくなりました。しかし、歴史の研究が進んで今の場大はまた江戸時代が見直されています。何せ天下太平で250年間も続いた時代です。江戸時代以降日本では200年以上続いた時代はありません。

 21世紀に入って、NHKの大河ドラマをはじめいくつかの作品はその新しい研究のせいかを盛り込んで、かなり実像に近い時代劇が製作されるようになってきています。それが時代考証の研究が進んだ成果となっているのではないでしょうか。近年は、一人の考証家が個人的な知識によって担うものではなく、細分化された諸分野の専門家が分業・協業しておこなうものへと変わってきています。その事を事例を挙げて解説しているのが本書です。

 歴史的事実をいかに正確に再現するかということと、現代の観客が舞台やスクリーンの上の表現にどのようにして主観的にリアリティを感じるかということは、それぞれのシーン、カット、台詞が、さまざまな考証作業を経ながら作られています。ここでは史実と創作との対話のなかで、作品がひとつまたひとつと生まれていく過程を知ることが出来ます。ただ、タイトルの時代劇の見方・楽しみ方といっても、この本の内容は、著者が関わったNHKの大河ドラマを事例に説明しているので、やや江戸末期から明治維新に内容が限定されているのが残念な所です。それが為に、2012年に放送されその描写に賛否両論だった「平清盛」はここではまったく取り上げられていません。

 それが為に時代劇といっても内容は幕末、それも新撰組と篤姫に限定されています。ですから、大きな意味で、次第交渉を捉えているわけでなく、個々の事例の裏話的な状況の時代考証が中心になっています。本来の時代考証のキーワードを知りたいのなら先の稲垣史生氏や林美一氏の著作の方が有益でしょう。この本の目次です。

プロローグ―時代考証と地域史研究
Ⅰ 史実と時代考証(時代劇の変化―「チャンバラ」から「現代劇」へ/時代劇の現場に立つ/時代考証と歴史用語/時代劇から史実に迫る)
Ⅱ 江戸の社会と文化(江戸時代の教育力に学ぶ/「江戸の道徳力」と子どもたち/「泰平」の時代の武芸者たち/生活文化からみた江戸時代/江戸の庶民生活と和菓子)
Ⅲ 将軍と大奥(篤姫の大奥/江戸開城期大奥の内政と外交/徳川家定の将軍的資質)
Ⅳ 龍馬と新選組(龍馬をめぐる歴史環境/新選組の時代/新選組の歴史的位置/新選組の実像を見直す/幕末の京都はこんな状況だった)
エピローグ―時代考証とリアリズム

 NHKの大河ドラマも原作がありますから、そうそう本筋から逸脱したものは描かれていませんが、内容に於いては言葉遣いの一つ一つが吟味されていることが分ります。昨年の真田幸村も史実に則り最後まで真田信繁(さなだ のぶしげ)で通されていました。我々がこれまで得ていた知識は、大岡越前にしても遠山の金さんにしても明治期以降の講談師達の脚色による語りがもとになっていたもので、殆どが作り話です。そういう、虚構が剥がされつつあるというのが今の時代劇ではないでしょうか。時代考証は21世紀に入り、時代考証学という一つのシンボリックな分野に成長してきています。そういう時代考証学の成果の上に出来つつある時代劇は、現代劇と何ら遜色ありません。民放はさっぱり時代劇は見放していますが、NHKの大河ドラマをはじめ、BS時代劇、土曜時代劇なんかは目が離せませんよ。