ブレンデル/メータの「皇帝」 | geezenstacの森

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ブレンデル/メータの「皇帝」

曲目/ベートーヴェン
ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
1. Allegro 20:07
2. Adagio un poco mosso 8:34
3 Rondo: Allegro 10:33
4.ピアノ、合唱、管弦楽のための幻想曲ハ短調 作品80* 20:29

 

ピアノ/アルフレッド・ブレンデル
指揮/ズビン・メータ
  ヴィルフリート・ベッチャー*
演奏/ウィーン交響楽団
  シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団*
合唱/シュトゥットガルト・レーラーゲザンクフェライン*

 

録音/1961、1966*

 

VOXBOX CDX3 3502

 

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 いゃあ、懐かしい録音です。廉価盤初期にコロムビアのダイヤモンド1000シリーズで発売されていたものです。当時は「皇帝」一曲だけだったのですが、最初はこんな録音が信じられませんでした。何しろ聴き始めた時はも既にメータはロンドン、デッカの専属でロスフィルと組んでばんばん話題のレコードを発売していましたし、ブレンデルは1970年にフィリップスと専属契約してこれまた意欲で黄にレコードを発売し出していましたからこんな組み合わせの録音があるとは俄に信じられなかったのです。当時は情報源と家はレコード芸術しか無かったのですが、そのレコード芸術が廉価盤はまったく取り上げないという閉鎖的な編集方針でしたから学生だった聴き手の小生は情報源を探る手だてがありませんでした。

 

 そんなことで、レコード店でそのレコードを目にしても、手に取ってジャケットを眺めるだけで、どうしても購入までの踏ん切りが着かなかったのです。ですから、とうとう、レコードではこの演奏を聴くことはありませんでした。後になって、色々な情報を知りこれがアメリカのボックスによるレコーディングで、ブレンデルは何枚かのベートーヴェンのピアノソナタと、協奏曲はオーケストラや指揮者はバラバラで全集を録音していたと知りました。で、当のメータはこの5番しか録音していなかったのです。そうそう、レコード時代は演奏は「ウィーン・プロムジカ管弦楽団」と表記されていてどこか怪しげなオーケストラだと思っていました。このCDではこの5番はウィーン交響楽団と表記されています。

 

 このV0XのCDでは、下記の表記になっています。
CD1
・ピアノ協奏曲第1番ハ長調op.15
 シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団
 ヴィルフリート・ベッチャー(指揮)

 

・ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op.19
 ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団
 ハインツ・ワルベルク(指揮)

 

CD2
・ピアノ協奏曲第3番ハ短調op.37
・ピアノ協奏曲第4番ト長調op.58
 ウィーン交響楽団
 ハインツ・ワルベルク(指揮)

 

CD3
・ピアノ協奏曲第5番変ホ長調op.73『皇帝』
 ウィーン交響楽団
 ズービン・メータ(指揮)

 

・合唱幻想曲ハ短調op.80
 シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団、他
 ヴィルフリート・ベッチャー(指揮)

 

 どうして日本コロムビアから発売された時、ウィーン・プロムジカ管弦楽団の表記になっていたのかは知るよしもありませんが、推察するに契約の関係だったのでしょうかね。それで購入を見送ったのですからメーカーは損をしたものです。調べるとこの録音、メータのデビュー盤ということです。この全集の録音は1961年から1967年にかけて行なわれています。で、この第5番は最初に録音されたものですが、この1枚でメータは降りています。つまりは、あまり魅力的なサポートをしていなかったと判断されたのではないでしょうか。

 

 実際の演奏はというと、第1楽章冒頭のピアノとオーケストラの合わせからしてずれています。1961年というとメータは若干25歳です。随分と早いデビューといえるでしょう。そのためかこのサポートはやや性急で精彩に掛けています。終始伴奏を整えることに神経をすり減らしているように見受けられます。まあ、対するブレンデルも1931年生まれですからこちらも30歳と若々しいです。ウィーン3羽ガラスと称されたほどの才人でしたからこちらの方が当時は格が上だったともいえますが、この演奏ではブレンデルのピアノが冴えています。

 

 レコードでは聴いたことがないので若干印象は異なるかもしれませんが、ミニコンクラスの装置で聴くと何ともオーケストラが貧弱に聴こえてしまいます。第1ヴァイオリンなんかは室内オーケストラの編成では無いかと思うようなスケスケの音で、それもアンサンブルがそれほど精緻ではないのでこれが本当にウィーン交響楽団の演奏なの?と思ってしまいます。当時はサヴァリッシュが首席指揮者でしたから、相当レベルの低いオーケストラを引き受けたものという印象です。しかし、これより前はカラヤンもこのオーケストラを率いて演奏会やらツアーを行っていましたから、そのオーケストラがこんな演奏を?と思えてしまいます。これは確かに正体不明のウィーン・プロムジカ管弦楽団の方が合っているような実態です。そんなことで、どっしりとしたドイツ風の演奏を期待すると見事に裏切られます。しかし、元々が2管編成で書かれていますから、初演当時は多分これぐらいの編成で演奏されたんではないでしょうかね。

 

 第1楽章はいきなりのオケの全奏とピアノの華やか鮮やかなソロは見事ですが、その後の2度目の全奏ではオーケストラが半拍遅れます。こんな不揃いでOKが出るとは当時の録音は一発録りに近いやりかただったんでしょうかね。多分テンポはブレンデルのペースだと思いますが、オーケストにパートの部分でもかなり走った演奏になっています。それでも、ブレンデルのピアノが入って来るときちっと締まった音に落ち着いてきます。実際この音そうミニコンクラスで聴く印象とコンポーネントクラスの装置で聴く印象とはがらっと変わります。小生も最初カーステレオで聴いていた時は実に貧弱なつまらない演奏に思えたのですが、これがリスニングルームの装置で聴くとそれなりのスケールで演奏が目の前に広がるのでびっくりし、ブログに取り上げるのを止めようと思ったものをこうして取り上げている次第です。

 

 

 第2楽章は静かな出だしですが、ここはメータの良さが現われています。フルートは独特のヴィヴラートを掛けていて結構目立っています。この頃のブレンデルのピアノは粒がキラ立ち、一音一音が輝いて響きます。多分オーケストラとの掛け合いではこの楽章が一番美しい響きを醸し出しているのではないでしょうか。

 

 第3楽章もくっきりとした粒立ちのブレンデルのピアノです。メータの指揮はオケのアンサンブルの荒さを残しながらも結構勢いのある演奏をしています。まあ、ウィーンで25歳の若造がびしっとオケをコントロールするにはこの時代は少し荷が重かったのかもしれません。それでも、徐々に終楽章に向かって熱い音楽作りをしていてこのガマ賞はブレンデルと互角のぶつかり合いをしています。ブレンデルは晩年の演奏は個人的にはあまり好きではありませんが、この若くして独特の完成で弾き切った皇帝は中々魅力的であります。

 

 このBOXのCDでは「合唱幻想曲」がカップリングされています。LP時代は「皇帝」一曲だけでしたから、それだけでもコスパの高い一枚となっています。ここでのブレンデルも若さ爆発の才気あふれる演奏で、前半のピアノ・ソロでは遺憾なくその才能を発揮しています。ただ、こちらの方ややや間接音の多い音場で、協奏曲のようなかちっとした音作りではありません。後半に合唱を伴っていますからその事も考慮された音作りなんでしょう。指揮のヴィルフリート・ベッチャーは手堅い指揮をする人で、ヴァイオリニストでもあり、ウィーン・ゾリスデンを創設しています。オーケストラの編成もこちらの方がやや大きいようで響きも充実していますし、アンサンブルもこちらの方が出来がいいですね。

 

 

 何れも若かりし頃の記録ですが、フィリップス時代よりも好きです。