ムター/カラヤン
ベートーヴェンヴァイオリン協奏曲
曲目/
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61 (1806)
1. Allegro ma non troppo (Cadanzas. Fritz Kreisler) 26:34
2. Larghetto 11:24
3. Rondo;Allegro (Cadanzas. Fritz Kreisler) 10:22
ヴァィオリン/アンネ=ゾフィー・ムター
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1979/09/24-25,27-29
EP:ギュンター・ブリースト
P:ミシェル・グロッツ
E:ギュンター・ヘルマンス
P:ミシェル・グロッツ
E:ギュンター・ヘルマンス
DG 479 2217(2531 250)

レコード時代は、ドイツグラモフォンの音は好きではなかったのでほんの一部のものしかレコードは所有していませんでしたが、CD時代になってからはそういう先入観は払拭されて、過去のものまでむさぼるように買い集めてしまいました。まあ、レコード時代に較べて価格が安くなったということもあるでしょうし、何よりも輸入盤が手軽に手に名入るようになったのか大きいでしょう。映像作品と違って、やれNTSCだ、PALだ、SECAMという規格に振り回されること無く、全世界で統一のフォーマットが採用されている所が良かったんでしょうなぁ。
小判的にはレコード時代はそれこそ目ぼしいものはリストアッブしておいて、バーゲンでこれはと思う出物があった時にそれを購入するということで、銀見していたものですが、CD時代になったら手当り次第に購入するという形になってしまいました。さの、最たる影響がDGの録音で、最近のボックスセットなど、名盤があちこちのセットに組み入れられているので、このムターのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲も「カラヤン70」とこの「ベルリンフィル・グレートレコーディングす」とダブって所有するということがざらになってしまいました。もったいないことです。

ムターのデビューは13歳の時で、カラヤン/ベルリンフィルのステージで演奏しています。翌1976年ルツェルン音楽祭でモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番でバレンボイム/イギリス室内管弦楽団の演奏会で公式デビューしています。そして1977年にはカラヤン/ベルリンフィルとモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番、第5番でレコードデビューを飾っています。そして、第2弾として登場したのがこのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でした。このディスクが登場した時には話題になったものです。当時はFMでも民放が放送で取り上げたものです。さて、この演奏はカラヤンとしては12年ぶりの録音です。以前は1967年1月にクリスチャン・フェラスと録音していました。で、その時の録音よりは幾分遅いテンポになっています。しかし、まあカラヤンのテンポと言ってもいいでしょう。そう頷けるのが多分1980年に録画されたヨーロピアン・コミュニティ・ユース管弦楽団(EUユース管弦楽団)との共演のリハーサルと本番の演奏です。カラヤンはこの年、ルツェルン音楽祭でこの曲をムターと供に演奏しているのです。映像では冒頭、少し前にも共演したことが話されていて、設立間もないこのオーケストラがアバドやカラヤンにみっちり指導を受けていたことが分ります。
カラヤン/フェラス 25:54 10:46 9:45
マズア/ムター 27:09 10:59 10:16
第1楽章冒頭の序奏部分は、意外なほど穏やかな始まり方です。カラヤンのベートーヴェンにしてはやけに慎重な音楽の運びのように聴こえます。そして、ムターのヴァイオリンの入りも、それに合わせたかのように随分慎重になっている感じがしてなりません。セッションは都合4日間設けられていますが、最初の2日間はこの第1楽章に当てられている気がしてなりません。この曲の録音にはエピソードがあって、モーツァルトの録音の後ムターはカラヤンにベートーヴェンを弾いて聴かせたそうですが、カラヤンは「来年またおいで」と言って、すたすた歩いて行ってしまったとか。まだまだ熟していないと思ったのでしょうね。まあ、モーレツに勉強してこうして無事録音出来たのでしょうが、心持ちディスクの写真や上の映像で確認出来るムターは、ややストレス太りをしている様な気がしてなりません。そんなことで、ディスクで聴くムターはカラヤンの要望に応えるべく、一音一音確実に弾くことに終始し、使用していたストラディヴァリの美音が、少々自発性が乏しい音楽になってしまっているような気がします。青少年相手のリハーサルでも音の揃え方や間の取り方、カラヤン得意のレガートの仕様などを細かく指示しています。このリハーサルでは幾分早めのテンポになっていますが、ムターが仏頂面なのがちょっと解せません。ディスクではカデンツァあたりから少々ムターが自分の思いを乗せて弾いている様が見えてきます。幾分テンポが速めなのはこれが若いムターのテンポなのでしょう。ただ、カラヤンはせかせかしたテンポにならないようにぐっと手綱を締めているかのようにコーダに向かってはまたテンポを遅くしています。
リハーサルを見ていて気がつくことはカラヤンの音楽の真骨頂は第2楽章にあるのではと思ってしまいます。冒頭の4つの和音をリハーサルでは執拗に繰り返しています。世の中、カラヤンが亡くなってから一時期カラヤンを突き放す風潮がありましたが、それが「アダージョ・カラヤン」なるコンピュレーションが大ヒットしカラヤン人気が再燃したやに記憶しています。カラヤンの音楽の美学はこういうゆったりとした音楽にあるのでしょうかね。ムターは、この楽章では充分にカラヤンのテンポの上で自分の音楽を作っています。それにつけても上手いのはベルリンフィルです。伴奏に徹していますが、分厚い音でしっかりムターを支えています。それでいて木管のソロなんかちゃんと自分たちの音楽を奏でているのですから大したものです。
がっしりとした音楽作りで第3楽章もムターはカラヤンの手のひらの中で踊らされていますが、さすがカラヤンが13歳の頃から目を掛けているだけあって、実力は充分です。個々でもカデンツァはクライスラーのものを使用していますが、ムターもカデンツァでは伸び伸びとストラディヴァリウスの美音を聴かせてくれます。多分目隠しで聴かされたらとても16歳の少女が演奏しているとは思えないのではないでしょうか。とにもかくにも70年代を代表するベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲です。
下はそのセッション録音です。上のライブと聴き較べるとその違いが分るのではないでしょうか。