変なおじさん |
発行 日経 BP社

女の子が大好きで、正体がバレるとヘンテコな踊りをするコントの役柄、それがご存知「変なおじさん」。でも僕は、この自分の分身が大好き。なぜなら僕も、ずっとお笑いにこだわってきた変なおじさんだから。子供の頃、コメディアンになろうと思い、ドリフの付き人から『全員集合』『だいじょうぶだぁ』『バカ殿様』とお笑い一直線。そんな人生50年をちょっとだけふり返ってみたヨ。---データベース---
古書店でこんな本を見かけました。1998年に発売された本です。手元に有るのはその第5刷で1ヶ月後のものです。して見るとかなり売れたんでしょうなぁ。今は文庫本化されているようで、この後発売された第2弾の「変なおじさん リターンズ」との合版になっています。最近、肺炎で緊急入院したとかでテレビでも取り上げられていましたが、オフィシャル・ブログを見る限りでは、順調に回復したようです。
志村けん初のエッセイ集ということで、少年時代からドリフターズの付き人、そして解散、独立後の現在までを語っています。最近ではレギュラー番組以外のバラエティにもちょくちょく登場していますが、ゴールデンでのレギュラー番組が無くなった1990年代中頃には一時期は死亡説まで流れたこともあります。まるでビートルズのようですね。
今ではレギュラーの「天才!志村どうぶつ園(日本テレビ)」が放送されてますからそんなことは無いですけど、お笑いタレント里奈かでは別格の存在であることは確かです。タモリ、明石家さんま、ビートたけしは現在のお笑い界の3巨頭ですが、志村けんは彼らとは一線を画すコメディアンです。ドリフ時代から培ったお笑いはきっちり計算された上でのお笑いで、どちらかというとチャップリンのような風格があります。自分の立ち位置をしっかりと理解していて、組み立てられたコントを披露しているからです。漫才ではないんですね。この本はそういう、志村けんの人となりを理解するにはもってこいのエッセイでしょう。
テレビで育った世代としては、志村けんといえば、日本で知らない人はいないんじゃないかというくらい有名なコメディアンです。子供のころから志村けんのことは知ってるけど、志村さんの素顔ってあまり考えたことがありませんでした。ドリフターズの付き人から、荒井注さんの後釜としてポット出て来たコメディアンという認識しかありませんでした。そう、この本を読むまでは。
自分のことをあまり語りたがらない人ですから、志村けんの素顔は以外とみんなが知らないのではいでしょうか。プロフィール的には、1950年2月20日生まれで本名は志村康徳)といい、けんは父親の名前からとられています。3人兄弟の末っ子で、東京都でも山奥の東村山で育っています。父は厳格な小学校の教頭先生でしたが、笑いの無い家庭だったようです。小学1年生の頃、運動会でみんなの前で「位置について、ヨーイ」どん!とウンコを漏らしたのがきっかけで、「ウンコもらし」と言われるようになり、そのイメージを消したくて面白いことをやり始めたのがお笑いの世界に首を突っ込む切ったかだったようです。時代的にはビートルズが好きで長髪にタートルネックという格好の青年で、仲間4人ぐらいと遊び回る学生で、決して人気者ではなかったようです。しかし、お笑いをめざす考えにぶれは無く、最初は意外でしたが由利徹に弟子入りを希望します。ただ、既に弟子が3人居たので断られます。そして、選んだのがコント55号とドリフターズの選択でした。ドリフは音楽活動をしていたということでの選択であったようです。いかりや長介の自宅に押し掛け付き人を志願します。これが運良く、付き人の欠員に恵まれ高校を卒業前に東北巡業に駆り出されます。
この付き人は順調ではなかったようで、一度付き人を止めて1年半ほど人生勉強をやり直します。その後はまた舞い戻って加藤茶宅に居候しながら付き人兼バンドボーイをします。まあ、このあたりが一つのことをめざしたらぶれない正確が幸いしたようです。当初は付き人兼任でマックボンボンというコンビ名で自分のコントグループを組んで活動していました。この頃のことはまったく知りませんでした。
その後、荒井注さんがドリフを抜けるとその穴を見事にうめて、東村山音頭、からすの勝手でしょ、髭ダンスなど次々にヒットギャグを生み出し加藤茶と人気を二分するコメディアンに成長していきます。ただし、ドリフのお笑いはチームワークの笑いです。誰かがウケるためにメンバーはそれぞれの役割に徹していたそうで、計算通りにウケるとメンバー全員が喜ぶのがドリフの特色でした。自分一人が目立ちたいという無益な競争があったらドリフは空中分解していたでしょう。
やがて、ドリフの冠番組が終了すると、独立して活躍し出します。勉強家という点では努力の人でしょう。普段はとてもシャイで静かな人間で、2時間枠ぐらいの番組をやっても飽きない構成を作るため、DJが曲順を考えて場を盛り上げるように、コントも順番を考えます。コントの台本をきっちり用意し、徹底的に練習するスタイルはまさにドリフで培われたものです。読んでいると彼のギャグはパクリであることが分ります。しかし、そのどれもが志村けんというフィルターを通して昇華されているのと、考えられた後世の中で効果的に使われることによって彼のギャグとして異彩を放っているのです。
志村けんのお気に入りのキャラクターは「変なおじさん、ひとみばあさん、バカ殿」がベストスリーだそうです。まあ、どれも子供から大人までの鑑賞に堪えるコントで使われています。そういう意味では、一部の客層に受けるだけの昨今のお笑い芸人とは芸の深みが違います。
結婚観についても書かれていますが、女性とは3年ぐらいで別れてしまうそうです。仕事に熱中するあまり、コントに没頭するため一人の時間が必要だから女性と上手くいかないというのがその理由のようです。この本が書かれたのは彼が50を前にした頃ですが、その考え方もぶれが無いようで未だに独身です。遂に親には孫の顔を見せられませんでした。ただ、付き人時代、同棲していた女性を妊娠させてしまっています。只、その後どうなったかは書かれていませんので、子供がいるかどうかははっきりしません。
ほかにも面白いエピソードがたくさんあります。この本を手にして、読み始めたら一気読みでした。通勤、通学電車の中でさっと読めます。そして読めば志村けんの印象が変わるでしょう。