うめ婆行状記 | geezenstacの森

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うめ婆行状記

著者 宇江佐真理
発行 朝日新聞社

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 北町奉行同心の霜降三太夫を卒中で亡くしたうめは、それまでの堅苦しい武家の生活から抜け出して一人暮らしを始める。醤油問屋「伏見屋」の長女として生まれたうめは、
“合点、承知"が口癖のきっぷのいい性格。気ままな独身生活を楽しもうと考えていたのだが、甥っ子の鉄平に隠し子がいることが露見、大騒動となりうめは鉄平のためにひと肌脱ぐことを決意するが……。
 昨年急逝した著者の遺作となる最後の長編時代小説。朝日新聞夕刊に短期集中連載の後、緊急出版!---データベース---

 一人の作家のデビューから最後までを追い続けることが出来たのは幸せなことです。このブログでは、わざわざ個人名の書庫を造ったのは宇江佐さんが最初で、今の所最後です。たまたまデビュー作から知ったということも縁ですが、年齢的にも同年代ということもあり親近感がありました。時代小説だけを書くというのも新鮮で、その文体も平用な言葉で綴られ、江戸時代が現在までに繋がっていることを違和感無く知らしめてくれました。時にあり得ない設定で書かれた小説もあり、大先輩に当る平岩弓枝氏からはお小言を頂戴するようなこともありましたが、一定の水準を保ちながら、一貫して江戸時代の市井の庶民達の姿を描いていったのはあっぱれです。

 宇江佐さんは新聞小説を書く時は、あらかじめ作品を完成させてから原稿を渡すことを常としていましたが、この小説だけはそれが叶いませんでした。単行本としてのボリュームのある288ページの小説ですが如何せん未完での絶筆作品となっています。「うめ婆行状記」は江戸時代、商家から武家に嫁ぎ、子育てを終えた主人公うめが、夫の急死を機に一人暮らしを始める時代小説。作者の宇江佐さんが、昨年11月に66歳で亡くなるまで、乳がんと闘いながら書き続けた遺作です。

目次
第一章 うめの決意
第二章 うめの旅立ち
第三章 うめの梅
第四章 うめ、悪態をつかれる
第五章 盂蘭盆のうめ
第六章 土用のうめ
第七章 祝言のうめ
第八章 弔いのうめ
第九章 うめ、倒れる
第十章 うめの再起 

 江戸時代ですが時代の設定はありません。主人公のうめは商家伏見屋の娘で、いやいやながらも先方から望まれて北町奉行の同心、霧降三太夫の妻になります。 伏見屋は大伝馬町の酢・醤油問屋で、押込み強盗を未然に防いだことの代償として嫁がされたような所もあります。商家から武家ということでしきたりの違いに苦労しながらも、二男二女に恵まれ、ひたすら夫や舅姑に仕えて暮らして来たものの、商家育ちのうめは婚家の質素で窮屈な暮らしに 息苦しく感じていました。 子供たちを育てあげ、長男の雄之助が妻子を得て家督を継ぐどころを見届けるまでは、 不平不満を腹におさめ、良妻賢母を演じてきました。 しかし、姑や春先に突然倒れた夫を前にしても不思議と涙は出ませんでした。

 そんなうめは四十九日が過ぎた梅雨時期に念願の一人暮らしを始める決意をします。うめの弟市助が実家にほど近い瓢箪新道に空き家を見つけ、その仕舞屋に移ります。まあ、父親が100両の金を残していてくれたことが幸いしたような所もあります。この仕舞屋には庭に大きな梅の木があり、隣人の助けを得て、丁度熟れていた梅で梅干しづくりを始めます。うめの梅ですな。ストーリーはこの梅干し作りを中心に、 一人暮らしのうめのまわりで、季節の移ろいと共に様々な出来事が起こ様を追っていきます。

 宇江佐さんの小説で梅を扱ったものに「甘露梅」という小説がありますが、そちらは吉原の世界での梅作りで、庶民の世界とは違うものですが、何か対照的なものを感じます。僅かその年の秋までの出来事を描いていますが、その中で盂蘭盆があり、祝言があり、弔いがあり、親子、夫婦、隣人、喧嘩も、許されざる恋も含まれます。そして、最後にはうめ自身も病に倒れます。本来は、長期連載の新聞小説ですから、その先も構想されていたのでしょうが、残念ながらうめの病明けで筆が置かれています。

 単行本としては珍しく解説が収録され、宇江佐さんと親しくしていた同じ時代小説作家の諸田玲子さんが、即貧舗分析しています。この小説、宇江佐さんのご自身の行状記ではないかとしています。小生も読んでいて、宇江佐さんのエッセイの「ウエザレポート」に書き散らした考え方を実践しているような部分を多々感じました。

 乳癌で突然亡くなった感のある宇江佐さんとうめ婆はシンクロしながら、読むものに残された人生は意のままに生きようよというメッセージをこの小説に託している様な気がしてなりません。唐突な終わり方も、それ故納得が出来ます。合掌!!

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