
天下の日本橋。ふらふらと橋を歩く坊主頭がいた。凶暴な顔つきのその男が、頭巾のようなものをかぶった途端、驚くべきことが起きた。なんと男は、いきなり爆発したのだ。阿鼻叫喚の騒ぎとなった橋から、男は逃げていったという。前代未聞の出来事が、実は長州忍者のしわざだと思った織江は、やがてその恐ろしい目的に気づく―。そして晩年、遠く離れた地で暮らす彦馬と織江は、再び妖しい影と対峙する。シリーズ第2弾。---データベース---
本作で描かれるのは本編の後日譚であるアメリカでの出来事だけではもちろんありません。本編の語られざる物語を描くパートで展開するのは、本編の陰で展開された7巻と8巻の間辺りでしょうか、お庭番の二人の刺客を倒した後の設定であるとともに織江と長州忍者の刺客の対決であります。この長州忍者は「火焔坊」とくノ一のお絹です。かつて長州藩の上屋敷を騒がせ、長州に潜入して長州忍者隊の秘密を探った織江でしたが、今は抜け忍となった彼女を誘き出し討つために、忍者隊が彦馬に目を付けたことを知った彼女は、思わぬ人物と手を組んで戦いを挑むこととなります。ただ、ここにいたってこういう登場のさせ方をしますから、やや本編とは辻褄が合いません。
本編の西部劇の方はアメリカ西海岸からミズーリ州のセントルイスに向かいます。この旅の途中でタイトルの「幽霊の町」に出会うことになります。それに合わせて織江とヒコは蛇文達と戦う為に手裏剣の練習や拳銃の扱いの猛訓練をします。しかし、二人とももういい年です。織江に身体のキレはありませんし手裏剣は思うように扱えなくなっていました。ヒコの拳銃さばきも命中率は半分ほどです。これで戦うのはまだまた不利です。そして、蛇文たちはサンフランシスコに咸臨丸で渡ったというのです。長州藩のニンジャですから正式に幕府の使節としての乗船ではなく水夫としてきたようです。どこまでも執念深い男です。ただ、織江達がアメリカで生きているという情報はどうやって知ったかは疑問ですけどね。
織江とヒコ、そしてピンカートン探偵社、それにロサンゼルスの保安官補のポール・ギャレットの一行は野宿などを続けながらひたすら東へ進みます。そのルートはどうも蛇文たちが通ったルートでした。そして、名も無い町でもその痕跡がありました。そして、その近道のルート上にその幽霊の町「アゴス」がありました。ただ、どうも話の様子から胡散臭さを感じます。ヒコ達は時間節約でも近道ルートを通ることにします。今は廃墟となった町ですが、そこに入ろうとするとやはり誰かが潜んでいて攻撃を仕掛けて来ます。原住民のインディアンでないことだけは拳銃を撃ってくることで違うと分ります。ヒコは一つの推理のもとにその敵を割り出します。ここでもヒコの推理は冴えているんですなぁ。夜目の効く雅江が敵の位置を確認し、攻撃を仕掛け敵を次々と倒していきます。
まあ、この本編はさほど仕掛けがあるわけでなく、淡々と進んで行きます。そして、このゴーストタウンが燃えて焼け落ちるのを見ながら織江はその炎で江戸での火焔坊との戦いを思い出し、江戸時代の話へ続きます。
火焔坊達の仕掛けた挑発は、江戸の真ん中の日本橋と神田駿河台の若狭小浜藩の上屋敷内で爆発事件が起きます。奉行所はやお庭番達はこの2カ所が持つ意味が今ひとつ理解出来ません。しかし、織江にはその目的が見えていました。二つの事件の延長線上には彦馬が教える寺子屋のある法深寺があるのです。火焔坊はここで対決しようと仕掛けているのです。それはまた彦馬の存在が知られているということを意味していました。お庭番が知る前になぜ長州忍者が知り得たのかということはこの際脇に置いときましょう。まあ、そういうことで、織江は何とかこの戦いを回避しようと作戦を練ります。
そして、思いついた作戦が、向うが仕掛けてくる前に長州藩の屋敷で決着を計ろうという作戦です。しかし、織江一人では何十人もいる長州忍者と戦うことは振りに決まっています。そこで助っ人に思いついたのが彦馬の養子の雁次郎です。この男は既に織江の立ち位置を理解していて、静山から身辺警護するようにいわれています。そこで、彼の作戦により知用集藩屋敷での戦いの準備が出来ます。これは、お庭番をも巻き込む戦いとなります。まあ、桜田屋敷と長州藩屋敷は接していますから仕掛けは単純なものです。
こうして、長州藩屋敷内ではお庭番対長州忍者隊対織江・雁次郎が三つ巴で戦うことになります。お庭番はくノ一の起きぬに手こずりますが、正体を見破った贋次郎が対決することで片付けます。そして、織江は火焔坊と対決することになります。相手は火を使うということを考慮して、水攻めで相手の得意技を防ぐという手段をとります。長州藩内での戦いということとお庭番が絡んでいるということで事は表沙汰にはなりません。まあ、この戦いにはいくつかのエピソードが絡んでいるのですが、それは読んでのお楽しみです。
さて、肝心のアメリカ編です。もう東部では蒸気機関車がかなり普及していました。こちらは、ミズーリ州からはオハイオ州コロンバスまでは汽車の旅となります。その出発の最中、車窓から三人の人影を見つけます。それが蛇文達でした。しかし、その中の一人にびっくり仰天です。この驚きだけは、読んでもらった方が良いのですが、「どうしてそうなるの!?」と言いたくなるようなあまりにも意表を突いた登場であります。
ということで、次巻はこのシリーズの締めくくりとなります。