チャールズ・ゲルハルトの世界/情熱の航路、キング・コング | geezenstacの森

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チャールズ・ゲルハルトの世界
情熱の航路、キング・コング
Now, Voyager
The Classic Film Scores Of
Max Steiner

 
曲目/
1. Now, Voyager/情熱の航路1942 5:51
2. King Kong/キングコング1933 7:16
3. Saratoga Trunk/サラトガ本線1943 2:30
4. The Charge Of The Light Brigade/進め龍騎兵1936 2:37
5. Four Wives/四人の妻1939 8:06
6. The Big Sleep/三つ数えろ1946 7:03
7. Johnny Belinda/ジョニーベリンダ1948 5:05
8. Since You Went Away/君去りし後1944 1:25
9. The Informer/男の敵1935 4:33
10. The Fountainhead/摩天楼1949 8:07

 

ピアノ/アール・ワイルド 5
合唱/アンブロージアン合唱団 9
指揮/チャールズ・ゲルハルト
演奏/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音/1973/02/02,03 キングスウェイ・ホール、ロンドン

 

P:チャールズ・ゲルハルト
E:ケネス・ウィルキンソン

 

RCA ARL1-0130 

 

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 1973年に発売されたマックス・スタイナーの作品集です。マックス・スタイナーはハリウッド黄金時代に300本以上の作品を手がけた映画音楽の巨匠です。メロドラマから戦争、活劇、西部劇まで幅広いジャンルで活躍していて、音楽の都ウィーンからロンドンを経て渡米した後15年ほどはブロードウェイで編曲・オーケストレーターに従事していたため、ハリウッドに移った直後はミュージカル映画の音楽監督としての仕事も多く残しています。アカデミー賞に26回ノミネート、作曲賞で3回受賞しています。スタイナーで一番有名な「風と共に去りぬ」はノミネートはされましたが受賞していないんですなぁ。ちなみにこの年の作曲賞は「オズの魔法使い」でした。

 

 ここでは、アカデミー作曲賞受賞の3作品(『情熱の航路』、『君去りし後』、『男の敵』)、アール・ワイルドのピアノをフィーチャーした『四人の妻』の「Symphonic Moderne」やアンブロージアン合唱団を使用した「男の敵」、キングコング映画の最初の作品となった「キング・コング」など力作を収録しています。ちなみに、キング・コング映画はジョン・バリーが音楽を書いた1976年の作品とジェームズ・ニュートン・ハワードが書いた2005年の作品があります。その2005年ピーター・ジャクソン監督によってリメイクされた『キング・コング』では、ニューヨークでのショー場面に、このディスクでも演奏されているスタイナー作曲の「生贄のダンス」が使用されていました。なを、5曲目の「四人の妻」は日本未公開です。

 

 さて、ここで指揮を執っているチャールズ・ゲルハルトについて一言。小生には思い入れのある指揮者です。以前も『永遠のスクリーンミュージック「風と共に去りぬ」』で取り上げていますが、日本ではいちいちマイナーな存在です。wikiにも日本版では紹介されていません。元々はピアニストでしたが1950年代にRCAに籍を置き、レコーディング・エンジニアとしてのキャリアを磨いていきます。当時のRCAにはライナー、ラインスドルフ、ストコフスキーなどそうそうたる指揮者がいましたし、晩年のトスカニーニ/RCA交響楽団との録音にも立合っています。1955ー1959年は一時ウェストミンスターでも活躍していました。1960年にふたたびRCAに戻ると当時提携していたDECCAのケネス・ウィルキンソンと組んでリーダーズ・ダイジェストの為に「The Festival of Light Classic Music」という制作してヒットさせます。これを機に、大々的にリーダーズ・ダイジェストの企画を進めていきますが、あるとき指揮者がキャンセルして困り果てたとき、自身が指揮をして切り抜けるというチャンスに巡り会います。これを機に、1964年ヴァイオリン奏者のシドニー・サックスと供にロンドンの主だったオーケストラのフリーランサーを集めて録音専用のオーケストラを組織します。これがナショナル・フィルハーモニー交響楽団です。このオーケストラを使って、彼はその後12年間でリーダーズ・ダイジェストの為に600枚のアルバムを制作します。さらに1968年からは、映画音楽にも手を染めていき、自身の指揮で後にシリーズ化される「Classic Film Scores」を制作する事になります。で、これがそのシリーズの第2作という事になります。

 

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 オリジナルはイギリスで制作されたという事もあるのでしょうが、このシリーズ中々充実しています。手持ちのレコードはRCAのRED SEALの刻印がありますが、ジャケット裏面には取り上げた10作品の写真とマックス・スタイナーのポートレートが、そして、インナーにはマックス・スタイナーがハリウッドで録音しているスナップとこの録音を指揮しているゲルハルトの写真が配された4ページのブックレットが付いています。さらに、ここでは何時もは素っ気ないレコードの紙袋が、ビニールコーティングされているものが使用されています。

 

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 しかし、何分にも古い映画の音楽で、中には未公開作品も含まれている事もあり、英語の解読には手こずりました。今ならインターネットでささっと調べれますが、当時はそんなことは出来ません。洋書の映画のデータベース本を買って来て辞書とにらめっこをしながらの捜索です。まあ、映画オタクではなく映画音楽オタクでしたからキングコングやサラトガ、ジョニー・ベリンダなんていうタイトルは固有名詞ですから分りましたが、「The Fountainhead」は辞書には「水源」としか出ていなくて、まったく「摩天楼」なんて思いつきもしませんでした。ちなみに、当時流行っていたデオダートの曲に「スカイスクレーパー(skyscraper)」があり、これが摩天楼でした。ですから、このレコードではひたすら音楽を聴き込んだだけです。

 

 デッカとRCAは1955年から提携してお互いのアーティストを融通し合って録音を続けてていましたが、1971年頃にその提携を解消しています。しかし、その後もゲルハルトとウィルキンソンは組んで録音を続けています。このシリーズにははっきりとした記載はないのですが、サウンドを聴くと、そのDレンジの広い響きといい全体の音作りといいRCAらしからぬ響きが感じられますから、ウィルキンソンがエンジニアとして参加している気がします。英語のサイトを見ると、ウィルキンソンと記載されているものもありますけどね。

 

 さて、ゲルハルトは実は指揮者としても夥しいレコーディングをしているのですが、どうもスタジオ・ミュージシャンに徹していたようで、フリーになってからもお誘いは合ったようですが、すべて断って指揮活動はしなかったようです。しかし、ここに残された仕事を改めて俯瞰すると、実に細やかな配慮でこのシリーズを録音しているのが分ります。小生など、このレコードでジョン・ウィリアムズ以前にもフルオーケストラを使った素晴らしい作曲家はいたものだと再認識しました。そう言う素晴らしさをゲルハルトはメドレー形式で音楽をつなげる事で、素晴らしい管弦楽作品に再構築しています。情熱の航路、キング・コング、4人の妻、三つ数えろ、ジョニー・ベリンダ、そして摩天楼は聴きごたえがあります。まずは、「キング・コング」です。

 

 

 次に「4人の妻」を聴いてみましょうか。何処となく「ワルソー・コンチェルト」の趣きがあります。

 

 

 少し前は、たくさんの音源がYouTubeにアップされていましたが、ゲルハルトの演奏は最近は殆どが削除されてしまいました。そんな中でもうひとつ見つけたのが、「ジョニー・ベリンダ」です。こちらはしっとりとしたムードミュージックの雰囲気です。

 

 

 リーダーズ・ダイジェスト音源は今はソニーが管理していると思いますが、もっと積極的に再発売して欲しいものです。小生なんか、チャールズ・ゲルハルトのBOXセットが発売されたらきっと買うと思います。