口入屋用心棒13 「荒南風の海」 | geezenstacの森

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口入屋用心棒13 「荒南風の海」

著者 鈴木英治
発行 双葉社 双葉文庫

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 沼里藩主又太郎の生命を狙った島丘伸之丞を捕らえた湯瀬直之進は、札差の登兵衛らとともに沼里を発ち、海路江戸に向かおうとしていた。一方、事件の黒幕堀田備中守は、思いもよらぬ奇策を用意し、島丘奪還を企んでいた。腐米汚職の全貌を知る島丘を無事江戸まで護送し、堀田の陰謀を白日の下に晒すことは出来るのか!?好評書き下ろし長編時代小説シリーズ第十三弾。---データベース---

 こんな展開ありなんでしょうかね。取り逃がしたと思われていた島丘伸之丞はなんと、佐之助に取り押さえられていたのです。ええっ、というエピソードでこの巻が開始されます。で、第2部としての闇米事件は解決するという事では、本当の意味での解決編と言えます。ただ、この展開はちょっと大味です。というのもこの回は焼けにモノローグが多い展開です。このシリーズの初期からこの手法は取られていたのですが、この巻はその手法も単調で、尚かつ話の展開に以前のようなカットバックの鋭さがありません。

 この巻の主体は佐之助が捕らえた島丘伸之丞を江戸に護送するという話なんですが、これを船で護送する事になります。しかし、登兵衛が手配したこの船、船足が遅いんですなぁ。もたもたしている間に、敵が動きます。黒幕の老中首座堀田正朝がこの巻では直に動くと言う事で、大団円が近い事を伺わせます。しかし、その作戦が如何にも偶然的な展開で、せっかく里沼藩に護衛として残った琢ノ介はちっとも役に立ちません。城主のお忍びに同行して城下に出てしまいます。そこで、悪党一味に捕まってしまうのですから困った物です。この偶然の捕虜は佐之助の関知する所なのですが、みすみす取り逃し敵の罠に落ちます。

 敵の船は高速船で、早々と直之進たちの船に追いついてしまいます。殿が捕まった事を知らされた直之進は敵の船についていく事になります。ただ、途中で嵐に会うという出来事があり、難破は免れたのですが東に流されます。敵の船も同様に嵐にあいますが、何とか犬吠埼の九十九里浜へ辿り着きます。そこから堀田正朝の別邸に連れて行かれるのですが、肝心の繋ぎがありません。まあ、遅れはすれども直の新たちもこの九十九里浜に到着し、殿の残した目印の根付けを頼って堀田正朝の別邸を探し当てます。

 前巻ではほとんど、活躍しなかった直之進ですからこの巻でようやく主人公らしい働きをします。忍び込んだ堀田正朝の別邸で、敵方の放つ30人の侍が総攻撃を仕掛けて来ます。迎え撃つは直之進と登兵衛の部下の和四郎だけです。ただし、殿奪還に向けての直之進の気迫は凄まじく、そのスーパーマン的な活躍で一人でこの30人を斬り倒してしまいます。このストーリーの第一巻で人を殺せず木刀しか使えなかった人物とは大違いです。ちょっと安っぽい昔のテレビ時代劇のような展開で、桃太郎侍のような流れです。そして、対に悪の親玉の堀田正朝と対決する事になるのですが、どうしたことか登兵衛たちが到着していて、人質の交換の場面と出くわすという端折った展開です。

 そうかと思えば、その場に佐之助がいて人質交換の段で堀田正朝が又太郎を斬ろうとする所を助けます。本当に安っぽい時代劇の展開です。で、直之進は思う存分堀田正朝と戦う事になります。結果は、この悪の親玉老中首座堀田正朝を斬って捨てるという気宇壮大な話で結末を迎えます。と、まあハッピイエンドでこの巻は終わると思いきや、直之進とお菊の帰りを待っていた口入屋の光右衛門が品川で誘拐されるという次回の予告が着いて終わりとなります。

 ちょっとシリーズが長くなり、話の展開が安っぽくなっています。収穫と言えば直之進とお菊が帰りの船の中で良い仲になるという事ぐらいでしょうか。富士太郎と珠吉のコンビも小さな事件を解決するという展開も折り込まれていますが、あまりにも本筋とは関係のない展開で霞んでしまいます。この巻では千勢はおやすみです。