妻は、くノ一 9/国境の南 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

妻は、くノ一 9/国境の南

著者 風野 真知雄
発行 角川グループパブリッシング 角川文庫

イメージ 1


 度重なる刺客との戦いに、織江は疲れを感じていた。彦馬を好きでなくなれば、一人で逃げ切れるかもしれない。切ない想いに動かされ、織江は自らに心術をかける。「あれは一時の気の迷い。恋なんてすべていつわりなんだ。幻なのさ…」。そんなある日、織江は妻恋坂下で呼び止められる。相手はなんと、幼馴染みのくノ一、お蝶。彼女は果たして刺客なのか?一方彦馬は、静山の指示でついに江戸を離れることに―。激動の第9弾。---データベース---

 前巻からの流れで、メインのストーリーはついに静山が海に漕ぎ出す決心をし、いよいよ日本を離れるという展開にまで進んでいます。その船の船長は彦馬がなる事になります。そはて、この船には彦馬と供に織江も乗せると静山が言うのです。そして、静山は織江が自分の娘である事を彦馬に告げ、また贋次郎は平土藩きっての忍びの者である事もばらします。ところが、川村は織江の幼なじみのお蝶を第四の刺客として呼び寄せます。こんなことで、江戸湾から出航してしまう彦馬たちを乗せた船を追って、川村や鳥居耀蔵らの首領自らが加わる組織との戦いはいよいよ寄港地の浦賀を舞台にクライマックスへ突入していきます。いちおう、今まで通りの章立てにはなりますが、この推理小説の部分は話がちょいと小粒になって、あまり出来はよくありません。

「序 こころの術」
「第一話 なんでも食う女」
「第二話 空飛ぶ男」
「第三話 尊い彫り物」
「第四話 屋根の上のかかし」
「第五話 満月は凶」

 風雲急を告げる展開ですが、彦馬と織江が出会えるわけではありません。反対にこの巻の前半では彦馬を忘れようと時分に心術を掛け彦馬を忘れようとするのです。そういう織江の姿を見て刺客となったお蝶は、反対にお蝶の味方になっていきます。いじらしいですなぁ。そして、彦馬の出航を遠巻きながら察知して織江も浦賀へ急行します。一方、彦馬は江戸を離れることになるという事は手習い所を止めなければなりません。その手習いの生徒へ最後の言葉をどんな言葉にしようかと悩みます。そして、決まった言葉は「元気を出せ!」。その言葉は生徒にもこれからの自分にもかけた言葉なのでしょう。

 前巻で贋次郎は長崎へ旅立っていますが、その長崎で、雁二郎はシーボルトに決死のアタックで紹介状を手に入れます。しかし、この努力の裏にはがん次郎なりの見事なはったりがあります。腹に腫瘍ができて、余命幾許もないとという宣告をシーボルトから告げられます。しかし、これこそがはったり、しこりに見せかけたのは飲み込んだ小石でした。ドラマ化されたテレビでは、敵に切られて死んでしまうという展開になっていましたので小説のこの展開もさもありなんと思っていたので、ほんとに死ぬのかとびくびくしてしまったのも事実です。

 第1話から第4話のサブタイトルは本編には関係ない、いつも通りのちょいと捻った小話程度のエピソードですが、第5話はちょいと深刻です。江戸を出航した平戸藩の帆船は、最初の寄港地浦賀に到着します。しかし、幕府の川村たちも彦馬たちを追って平賀に集結していました。夜陰に紛れてといいたい所ですが、天は味方しません。満月で不利な戦況の中、織江と川村との対決が待ち構えています。織江の放つ手裏剣は闇夜ならば充分川村に通用する秘術なのですが、月明りが手裏剣の存在を照らし出してしまうのです。織江が不利な戦況です。その時、この場に何とここしかないタイミングでお蝶が助太刀として現われます。お蝶の縄を使った戦法で、川村を道連れに崖から飛び降ります。お蝶は自分を犠牲にして織江に生きて欲しかったかのようなのです。まあ、ハッピィエンドの展開ではありませんからこれは仕方の無い流れでしょう。しかし、これでも死なない川村です。そして、ここに鳥居耀蔵も幕府の切れ者4人を引き連れて登場して来ます。

 まだまだ一波乱ある展開になるようですが、続きは第10巻です。それはそうと、この巻のタイトル「国境の南」とはまたまた古い戦前のナンバーです。1939年の曲で、作詞はジミー・ケネディー(Jimmy Kennedy)、作曲はマイケル・カー(Michael Carr)。同名の映画の中で、当時のカントリー・スター、ジーン・オートリー(Gene Autry)が歌いました。その後、多くの歌手がカヴァーしていますが、1953年のシナトラのカヴァーが最もよく知られています。でも、ここでは少々変化球として、ジャズバージョンをバックで流しています。