LPジャケット美術館-クラシック名盤100選 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

LPジャケット美術館
クラシック名盤100選
 
著者/高橋敏郎
発行/新潮社 とんぼの本

 

イメージ 1

 

 目にも耳にも美味しかった懐かしき30センチ四方の美術館。世界的コレクターが蒐集数5万枚から厳選した100枚を1頁1点ずつ、CDジャケットと同寸で贅沢に収載。---データベース---

 

 レコードのジャケットとというものは30㎝x30㎝という大きさながらそれ自体額装して飾ることの出来るもので、とても現在のCDでは真似の出来ないものです。それだけにそのデザインについては凝ったものが多く、この本ではそのジャケットにまつわる周辺の裏話を読むことができます。ここに収録されている100点は著者の5万枚にも及ぶコレクションの中から書くテーマによって厳選されたものが選ばれています。章立ては以下のようになっています。

 

第1章 美の協奏
第2章 肖像は語る
第3章 現代史の一瞬
第4章 微笑みの国から
第5章 歴史を刻む
第6章 デザインの勝利
第7章 すぐそこにある「死」

 

 一口に5万枚といいますが、これは相当の量です。LP1枚はジャケットに入った状態で約200g、それの5万枚ですから約10トンになります。1枚のレコードの厚さは約6㎜ですが、さすが5万枚ともなると約300mです。これは、東京近郊の高尾山に匹敵する高さになります。いかに凄い量かがお解りいただけるのではないでしょうか。ちなみに、小生宅には最高時1万枚あり、この重さで家がやはり北側に少し傾いています。(^▽^;)

 

 実は高橋敏郎氏は、この本の出版以前に、音楽出版社から「20世紀の傑作LPレコード 100選」、また毎日新聞社から「20世紀レコード・ジャケット傑作集」なる物を著しています。この2冊はクラシックだけではなく、ロックやポップス、映画音楽に、邦楽までを網羅しています。ここではそれとダブらない配慮がされているということで、少々内容的にはマニアックな部分が有り、一般的な名盤100選とは少し毛色が違う部分が有ります。

 

 さて、ジャケットとは何か、について著者は第3章の前のコラムで次のように書いています。

 

「落下、破壊には強いがホコリに弱いポリ塩化ビニールでできたLP盤を守るためにできたのがジャケット(それ以前のSP盤は、ホコリには強かった)。当初は画一的、単純な印刷でしかなかったものが、次第に、デザイン志向性を強め、こうしてその仕事に関わるデザイナーは、「中身の音楽と徹底的に向き合い、いかに自身のイマジネーションを具体的にしていくか」という課題に取り組んでいく。「これは実に難しい仕事だが、そんな『音楽とヴィジュアルの対話』にもっともふさわしい場所こそ、たった30センチ四方のカンバス『ジャケット』だったのだ。」

 

 LPレコードを開発したのはアメリカのコロムビアでした。その記念すべき最初のLPは、俗に「墓石デザイン」と呼ばれるもので、色と文字情報を変えるだけですべて同じデザインの使いマワシでした。

 

イメージ 2

メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン/ナタン・ミルシュテイン
指揮/ブルーノ・ワルター
演奏/ニューヨーク・フィルハーモニック  Columbia ML4001

 

 LPの歴史は焼く35年間でしたが、そこには「ジャケットよければすべて良し!!」の音楽芸術と絵画芸術の融合で完成された別次元の世界がありました。冒頭に取り上げられたのはロストロポーヴィチ指揮、パリ管弦楽団の「シェエラザード」です。このLPはまだ冷戦時代にようやくビザが下りてヨーロッパに旅行した折り、ロストロポーヴィチが西側のオーケストラを指揮して録音した彼のデビュー盤です。そんなこともあり、ジャケットは古くからの友人だったシャガールがこのレコードのために献呈した作品が使われています。ちなみに国内盤はたすきが入る関係で絵が右端にレイアウトされていました。

 

イメージ 3

米Angel S37061

 

イメージ 4

日Angel EAC80037

 

 さて、お次はミュンシュ/ボストン響のベルリオーズの「ファウストの刧罰」です。ジャケットの絵はメキシコの抽象画家ルフィーノ・タマヨの作品なんですが、こちらは本人をニューヨークのスタジオに連れて来て録音を聴かせ、その印象を一気に書かせたオリジナルの作品が使用されています。

 

イメージ 5

米RCA LM-6114

 

 オリジナルの絵画をジャケットデザインに使うという手法はありきたりに思いますが、それもアイデア次第でしょう。ブーレーズ/ニュフィルハーモニア管弦楽団のドビュッシーはその原点ともいえる葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を黒をベーストした背景の中で浮き上がらせています。ただし、このイギリス盤はただの波の写真を使っていました。

 

イメージ 6

仏CBS 32 11 0055

イメージ 7

英CBS 72533

 

 ことほど左様にレコードジャケットは世界各国で違いがあるもんです。ただし、収録されている音楽は世界共通なんですから面白いもんです。この本ではそういう違いは言及されていませんが、コレクターの端くれとしてそういう楽しみにも触れることが出来るこういう本は実に興味深いものです。このブロクでも、そういうレコードをCDとともにこれからも取り上げていこうと思っています。

 

付記

 

 この高橋敏郎氏の「心に残るディスク100選」がオーディオメーカー「C.E.C.」下記のHPで連載されています。興味があったらご覧下さい。