
北朝鮮から米国への亡命者を乗せたボーイング747‐400は数時間遅れの出発ながら、順調な夜間飛行になるはずだった。が、離陸後まもなく異変はおきた。失速警報と速度超過警報が同時に鳴り響き、高度計はゼロを指し―。高速道路を目隠しで突っ走るような恐怖にパイロットはパニックに陥りかけた。そのとき無線が入ってきた。「こちらのシミュレーターを使って、いまからあなたの機を操縦します」考えもしなかったこの方法に、パイロットはすがった。絶体絶命の危機はこれで回避できるはずだったのだが…。---データベース---
久しぶりに痛快なサスペンス小説を読みました。ただ、この記事を書こうとしてネットを調べたら、作者の内田幹樹は2006年に前立腺癌で亡くなっていました。経歴が凄いです。1965年に全日本空輸に入社、民間航空機の操縦士、機長、操縦訓練の教官を務めていました。その教官として下地島滞在中に執筆した小説「パイロット・イン・コマンド」を第14回サントリーミステリー大賞(1997年)に応募、優秀作品賞を受賞したのが小説家としてのデビューとなります。民間航空機のパイロットの目に映る事実や実際の出来事を織り込んで描く航空ミステリー小説、旅客を乗せて飛行機を飛ばした経験を綴るエッセイの「機長からのアナウンス」などの著書があります。しかし、全日空退社後、作家として活躍する矢先の死去です。パイロットとして操縦した飛行機はフォッカーフレンドシップ、ボーイング727、YS-11、ボーイング737、ボーイング767、ボーイング747-400、CRJなどで、ここで登場するのがボーイング747-400ですからリアリティがあります。
ミステリーとしては、事件の背後関係にある同類の事故を調査した際に浮上する怪しいパイロットの存在が浮上するという設定は、やや稚拙な感じがしますが、これはサスペンスを描くための道具立てと割り切るといいでしょう。
前半の事件ではパリ発、ウィーン経由成田行きのニッポンインター008便に、乗客一名が余分に搭乗していることが分りこの人物が北朝鮮からの亡命者だと判明します。ロシアの上空でミグに遭遇したり、さらに正体不明の戦闘機が接近したりして緊張か溢れる描写は読み応えがあります。この掴みの部分が良いので、ぐっと小説にのめり込むことが出来ます。
この008便は、お膳立てのようなものでことさら大事に至ることは無く、無事成田に到着します。本編はこの亡命者をアメリカに出国させるためのフライトするなのですが、ここに悪条件が重なります。日本上空には爆弾低気圧が発生し、海外からの便が成田に統治約しません。で、コードシェアを持つニッポンインターの002便がこの亡命者を乗せてテイクオフすることになります。
作者は元パイロットで専門用語が頻繁に登場します。で、話を解り易くするために事故調査の名目で訓練内容のカリキュラムのためのシュミレートをする会議を挟み込んで、どういった状況で事故が発生するかを述べるシーンが一章挿入されています。ここで登場するのが桜井望美という今は訓練技術課で747-400を担当している女性です。しかし、入社当時は優秀なパイロット候補生のひとりで、初の女性パイロットを目指していたのだが「空間識失調」という体質のためやむなくリタイヤした経歴の持ち主です。この件は一見無駄のように見えますが、この内容が本編の操縦不能を救う伏線になっています。読者もここで疑似体験をしていますから、本編で747-400がコントロール不能になっても望美の機転の効いた判断でジャンボの墜落を防ぐことになります。
ただ、事件の発端となる成田の格納庫での描写が中途半端で、ロシアからのチャーター便で到着していた怪しいパイロットが、糸み簡単に整備中のジャンボに近づくことが出来るという描写はやや納得出来ません。これが為にジャンボの計器を狂わせるビトー管に細工をされるわけですから、ここら辺の描写をもう少し入れたくれると良かったのにと思えてなりません。で、飛び立った後、急に二人の機長が意識不明で倒れるわけですから、一帯なんなのと思えてしまいます。本来ならこういう事態にならないよう喜蝶は同じ食事をとらないし、飲食も別々にするはずですが、あっさりと謎のパイロットから貰ったガムを二人とも咬んでいるのですから、呆れてしまいます。まあ、交遊設定にしないとコーパイと呼ばれる副機長が活躍出来ないのですから仕方の無い所ですが、やや納得のいかない所でもあります。
事件は緊張感のあるテンポで話が進んでいき、異常事態の真の原因にただひとり気づいた望美が独断でシミュレーターと航空無線を接続し、実機の状況をシミュレーションに入力していっしょに操縦しながら電子機器と自動操縦装備がほぼ全滅したジャンボジェットを無事に着陸に導びいていくのです。二人の喜蝶はクリスマス休暇前の日本列島を最悪の冬の低気圧が襲い、着陸できるのは那覇か韓国の仁川のみと限られます。その那覇も雨が降っていて視界は悪い状態です。
さらに、シュミレート飛行している最中に望美は実査位のパイロット訓練の時にも陥った空間識失調に襲われてしまいます。さらに、747-400との交信は管制室とのやり取りではなく、訓練用のシュミレーターと行なうと言うことで、ローテクノ中でのやりとりです。電波の届かないエリアでは交信が出来ないと言う事態も発生します。実際、那覇とは更新出来なくなります。もうだめだという時になって、かつての彼女の教官で彼女に対してパイロット失格の判定を行った滝本教官が、別の747-400で救援に駆けつけてきます。さらには、747-400を操縦している副操縦士の江波も問題のガムを咬んでいて、症状が現われ始めるという金箔の状況の中での那覇空港への着陸です。ただ、最後の最後に計器が正常に作動するようになり、オートパイロットで何とか着陸できるようになります。ところが雨の中の着陸です。タイヤはブレーキがかからず滑走路をはみ出しそうになります。あわやね最後の最後に大惨事か!!!・・・っていう感じのストーリーです。
面白そうでしょ?久しぶりに一気読みをしてしまった小説です。次の日が休日で良かった?!それにしても、北朝鮮が絡んでいることでドラマにはなりにくい内容なのが残念です。そう言うことも影響してか、既に絶版になっているようで書店では見かけることはありません。内田幹樹氏の他の作品も中古書店を探すしか無いでしょうかね。