
平戸藩の御船手方書物天文係の雙星彦馬は、三度の飯より星が好きという藩きっての変わり者。そんな彦馬のもとに上司の紹介で美しい嫁・織江がやってきた。彦馬は生涯大切にすることを心に誓うが、わずかひと月で新妻は失踪してしまう、じつは織江は、平戸藩の密貿易を怪しんだ幕府が送り込んだくノ一だった。そうとは知らず妻を捜しに江戸へ赴く彦馬だったが……。人気著者が放つ「妻は、くノ一」シリーズ第1弾!---データベース---
2013年にNHKでドラマ化されたそうですが、小生は知りませんでした。その続編とでもいう「妻は、くノ一 最終章」が5月からBSで放送されたのを遅まきながら視聴したのを期に、原作に手を染めました。
平戸藩の御船手方(おふなてかた)書物天文係の雙星彦馬(ふたぼし ひこま)は三度の飯より星が好きで、先祖伝来の田畑を売ってまで望遠鏡を手に入れた、藩内きっての変わり者という設定です。一風変わったそんな主人公の設定の下に、上司の紹介で美しい妻・織江(おりえ)が嫁いできます。しかし、この妻、身一つで自ら船を漕いでやってるのです。ふたりは正式に親戚に夫婦の披露をすること無く彦馬も変わっていますが、妻の織江も一風変わっています。第一巻では彦馬は28歳、彼女の年齢は明らかになっていませんが、シリーズでは23歳という設定です。この二人の夫婦生活についてはあまり書き込まれてはおらず、ちょっと肩すかしの感じがします。それでも、夜空の星空の星の数を幾つぐらいあるのか妻に説明するときは目を輝かせているし、妻の織江そんな彦馬を好いている風は伺えます。彦馬も織江を一生涯大切にしようと心に誓うのでしたが、幸せな生活は織江の失踪によってわずか1か月で終わってしまいます。それは本当に唐突に消えてしまいます。失踪する少し舞え、夜中に妻の布団が空なのに気がつき、外に出て海辺に向かうとそこで何やら人の戦う様子に出会います。きらりと光った対決の後には星形の手裏剣が落ちています。そういう者は忍者が使うものだと理解している彦馬は、妻の織江が平戸藩の密貿易疑惑を探る幕府の密偵だったのではないかとおぼろに感じます。しかし、もう一度織江に会いたいと強く願う彦馬は28歳にして隠居し、商家の海産物問屋〈西海屋〉の養子となり江戸店を取り仕切っている親友を頼って江戸で暮らし始めるという展開になります。
ところで、この小説冒頭は鎖国を解き国を開きたいとの開明的な思想を持つ元平戸藩主の松浦静山(まつら せいざん)と先きの西海屋の千右衛門の二人が登場して、まるでホラーのような展開です。そう、松浦静山といえば、自身が経験したことや人から聞いた不思議な出来事や怪奇事件について『甲子夜話』という書物を執筆した歴史上の人物です。江戸時代中期から後期にかけての旗本・南町奉行の根岸鎮衛が著した「耳袋」と双璧をなす作品でしょう。
一方、織江もまた彦馬のことを忘れられずに、くノ一として活動しながらも、ふたたび平戸に舞い戻ります。しかし、彦馬はすでに江戸へ旅立った後です。東海道をのぼる途中で、彦馬をみつけ、のんびり旅する彦馬の前に訪れる事件を手助けしながら無事江度に到着するのを見届けます。
第一巻はこの小説のプロローグのような内容で、色々な登場人物が目まぐるしく登場します。しかし、役者は揃いました。彦馬はやんちゃな子供の集まる寺子屋で先生をしながら妻の織江を探すことになります。暫くはこの小説と付き合うことになりそうです。