フルトヴェングラー フィッシャーの「皇帝」 |
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曲目/ベートーヴェン |
1. Allegro 20:38
2. Adagio Un Poco Mosso 7:51
3. Ronde (Allegro) 10:22
ピアノ/エドウィン・フィッシャー
指揮/ウィルヘルム・フルトヴェングラー
演奏/フィルハーモニア管弦楽団
指揮/ウィルヘルム・フルトヴェングラー
演奏/フィルハーモニア管弦楽団
録音/1951/02/19,20 アビーロード第1スタジオ録音
Menbran 233110-15

この演奏、レコード時代はTurnabout盤で所有していました。雑な作りのジャケットで、表と裏が同じデザインのものを張り合わせただけだったと記憶しています。ただし、当時はこの演奏についての魅力はほとんど記憶にありません。もともとフルトヴェングラーを知らない世代で、時代はステレオ時代でしたからモノラル時代の凄い指揮者という伝説にはほとんど興味が無く、また、実際ステレオ用のレコード針で聴くモノラルの音は貧弱で本来の音ではない事をその後に知りますが、この時はもやもやした音という印象しかありませんでした。何よりも、ステレオ時代に聴くバックハウスの風格のある演奏にしびれていましたから、それに比べるとあまりの音の落差と、フルトヴェングラーが他のベートーヴェンの作品に見せる重厚さが感じられなかったことが印象を薄くしてしまったのでしようね。
1951年2月19-20日にアビーロードの第1スタジオで録音された「皇帝」ですが、EMI録音はこの時代にあっては水準以下で、レンジが狭くSN比も芳しくありません。フォルテの強奏では少しばかり玉砕気味になることがありますが、オーケストラとピアノの音のバランスはよく、さすがセッション録音である事を感じさせます。ところで、この録音、つい最近までオーケストラはてっきりベルリンフィルとばかり思っていました。考えてみれば、フルトヴェングラーといえばベルリンフィルの終身指揮者でしたし、また、1950年のベートーヴェンの交響曲第7番なんかはウィーンフィルを起用していたので、その二つのオーケストラのどちらかだろうと思ってあまり気にも止めていませんでした。ところが、ここで演奏しているのはフィルハーモニア管弦楽団なんですなぁ。いゃあ、改めて驚きました。
フィルハーモニア管弦楽団は1945の10月の設立ですから戦後のオーケストラですが、設立者のウォルター・レッグの手腕のもと、設立当初から大物指揮者を定期に登場させ、このフルトヴェングラーも1948年にはは早くも登場しています。この年には同時に宿敵カラヤンも、そして後に常任となるクレンペラーも登場しています。初共演から3年でこの録音が誕生しているわけで、このオーケストラの柔軟性を証明しているといってもいいでしょう。さすが当時は録音専用のオーケストラです。まあ、この後1952年にカラヤンとヨーロッパ 大陸ツアーも成功させてその存在感をアピールする事になります。
ただ、ここではフルトヴェングラーは安全運転で第1楽章を開始しているように思います。このテンポに乗ってフィッシャーはピアノを弾き始めます。調べてみるとこのフィッシャー、指揮者でもあったんですなぁ。弾き振りの先駆者でウィーンフィルを相手に戦前のザルツブルグでは大活躍したようです。ただ、テクニック的にはホロヴィッツやルービンシュタインには及ばなかったようで、ここでも細部のニュアンスは曖昧なところが伺えます。それでも、彼の持っている音楽性でぐいぐい聴かせてくれます。ここはピアニストとしての演奏家と指揮者としてのコントロールの両面を知り尽くしているフィッシャーならではの強みでしょう。フルトヴェングラーのディスコグラフィを見て知ったのですが、交響曲は何種類も録音がりますが、「皇帝」の録音が、これが唯一というのは意外です。
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第3楽章はまたちよっと危なっかしいようなピアニズムで進んで行く箇所がありますが、70年代までの音楽評論家はこの演奏をベタホメです。小生はそれには同調しませんが、こと音楽的センスによる演奏という点ではこの2大巨匠のぶつかりはセッション録音ではありますが、どこか一期一会的な雰囲気を感じます。こういうものを音楽的演奏というのでしょうか。
一応、YouTubeにアップへされている音源を貼付けていますが、音質は充全ではありません。手持ちはMenbranの「フルトヴェングラー・レガシー」と題された107枚組のセットの中の一枚で、この曲1曲しか収録されていませんが、意外にも聴きやすい良い音がします。