ストコフスキーのブランデンブルク協奏曲 | geezenstacの森

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ストコフスキー
ブランデンブルク協奏曲
 
曲目/J.S.バッハ
ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調 BWV.1050
1Allegro 11:09
2. Affettuoso 8:30
3. Allegro 6:06
4.コラール前奏曲『イエスよ、私は主の名を呼ぶ』BWV.645(ストコフスキー編)4:03
5.コラール前奏曲『来れ異教徒の救い主よ』BWV.659(ストコフスキー編)5:20
6.コラール前奏曲『我ら唯一の神を信ずる』BWV.680(ストコフスキー編)3:16
 
アンシェル・ブルシロウ(Vn)
ウィリアム・キンケイド(Fl)
フェルナンド・ヴァレンティ(Cemb)
指揮/レオポルド・ストコフスキー
演奏/フィラデルフィア管弦楽団

 

録音/1960年2月
P:ハワード・スコット

 

SME 88691971152

 

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 ストコフスキーのCBS時代のステレオ録音が、以前取り上げたバーンスタインのマーラーのようにオリジナルの紙ジャケット仕様のボックスになりました。まあ、バーンスタインは一部差し替えがありましたが、このストコフスキーは完全オリジナルジャケット仕様で、LP時代の収録のままCD化されています。ですから、LP時代のレコード番号もそのまま表示されています。この一枚は、MS6313で、こういうところもファンにはたまらない魅力でしょう。以前CD化はされていますが、久々に復活したものが多く、嬉しい限りです。取り上げるフィラデルフィアとの録音は、ブランデンブルク協奏曲第5番と、ストコフスキーの十八番のトランスクリプションからコラール前奏曲を3曲収録。3曲だけですが、ステレオで聴けるフィラデルフィアとのストコフスキーのバッハのトランスクリプションはこれだけなので貴重です。ストコフスキーのバッハにブランデンブルクの5番があったというのは意外で、確かにディスコグラフィを確認するとSP時代に第2番を録音しているぐらいで、珍しいものです。なんといっても、バックがフィラデルフィアで、ソリストはコンマスのブルシロウにフルートの名手キンケイド、それにこの時代の録音では珍しいチェンバロにヴァレンティを配しています。まだ、ピリオド楽器の時代ではありませんが、チェンバロの響くブランデンブルク協奏曲は珍しかったんではないでしょうか。

 

 この録音は、ストコフスキーがまさに一時代を築いたフィラデルフィアとは、ほぼ20年ぶりの共演としてのコンサートが行われた後にスタジオで録音が行われました。たった1日でもう一枚のファリャやワーグナーの作品が収録されたもののLP2枚分の量の録音が完了していたのは、リハーサルは必要なかったからでしょうか。ジョン・ハントの「ストコフスキーディスコグラフィと演奏会記録」という本によると、収録されている「ブランデンブルク協奏曲第5番」はコンサートでは取り上げてはいませんでしたから、このLPが発売された時、ファンは驚いたのではないでしょうか。まあ、ぶっつけ本番に近い録音で、20年のブランクはオーケストラの世代交替を経ていたでしょうが、演奏はいかにも手慣れたもので、すっかりストコフスキーサウンドを聴かせてくれています。

 

それにしてもせっかくフィラデルフィアを指揮したバッハだけに、トッカタータとフーガなどもフィラデルフィアとのステレオ録音で聴きたかったところです。フィラデルフィアとのステレオ録音によるバッハのトランスクリプションはオーマンディのものがありますが、ストコフスキーの演奏で残されなかったことが悔やまれます。
 
 最初のブランデンブルク協奏曲はサロンコンサートの様な雰囲気です。クレジットはフィラデルフィア管弦楽団になっていますが、実態はフィラデルフィア室内管弦楽団の風情で、少人数の編成の演奏です。ここではストコフスキーはバッハの作品に手を加えていません。オリジナルの形で演奏しています。しかし、そこはストコフスキー、ただ演奏している訳ではありません。ここでもロマンティックな表情付けは健在です。レガートたっぷりの演奏で始まり、最初のフレーズの終了で早くも大きなリタルダンドでしめくくり、フルートソロに引き渡しています。やってくれますが、これでこそストコフスキーでしょう。しかし、演奏そのものはいたって真っ当で、現代楽器で演奏されるバッハですが、1960年という年代を考えれば、ミュンヒンガーやクルト・レーデル、リステンパルトといった面々もこういう形の演奏をしていた訳ですから、それらと何ら引け目を感じません。

 

 ここで聴かれるウィリアム・キンケイドのフルート・ソロは極上で、40年以上もこのオーケストラで活躍した経歴を忍ぶことが出来ます。ストコフスキーはこ曲をチェンバロのための協奏曲とは捉えておらず、合奏協奏曲というスタンスで演奏しています。非常にリラックス出来る演奏で、知らず知らずストコフスキーのバッハの世界へ引きずり込まれます。まあその第1楽章を楽しみましょう。

 


 惜しむらくはやや編集ミスで、6分過ぎの部分でちょっと音楽の流れが寸詰まりになる処があることです。せっかく良い気持ちで聴いているのに、この編集ミスは残念です。こういうところがあってなのか、中々このソースはCD化されませんでした。これも、一応輸入盤ですが、国内盤でCD化されたことはありません。そんなことで、ほとんど忘れ去られていた音源といってもいいでしょう。些細な傷はありますが、ファンとしては持っていたいバッハです。

 

 後半はバッハのコラール前奏曲が3曲演奏されています。こちらも室内楽の編成による編曲で、フルオーケストラの派手な編曲ではありませんが、しっとりとした演奏で敬虔なバッハの音楽を味わうことが出来ます。最初のコラール前奏曲『イエスよ、私は主の名を呼ぶ』BWV.645はふと、映画「惑星ソラリス」を思い起こしてしまいます。この映画のテーマもバッハの『イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ』(BWV 639 )が使われていましたから雰囲気としては非常に良く似たものです。

 

 


 こういうコラール前奏曲が3曲収録されています。LP一枚分の収録ですから40分弱ですが、人間の生理的には一番手頃なひと時ではないでしょうか。素晴らしいストコフスキーのバッハの世界を共有することが出来ました。